セオリア・ハルモニア 〜はじめての人からすごい人のための音楽理論〜

初心者から上級者のための音楽理論ブログです。実践的な例を挙げながら、主観的に音楽理論をまとめたいと思います。

他のキーからコードをパクる借用和音②-1<モーダルインターチェンジ>

 前回の他のキーからコードをパクる借用和音①<サブドミナントマイナー>で

taka-musictheory.hatenablog.jp

  違うキーが持つコードをパクってくるとなんかいい感じになる、というお話をしました。この他のキーからパクられたコード、和音を「借用和音」と言いました。

 

 「サブドミナントマイナー」はメジャーの曲において、同主調の4番目の和音のパクってきた”借用”和音です。

 

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 同主調とはスケールの1番目が同じ音で始まるメジャースケール(長音階)・マイナースケール(短音階)の関係を言います。例えば、1番目が「ド」で始まるスケールは#bが何もない、Cメジャースケールとbが3つのCマイナースケールです。

 まぁ、要するに「#bの数は違うけれど、名前がほぼ一緒のやつ」です。

 

 4番目のコードをパクれるということは、他のコードもパクれる可能性が出てきます。そこで今回、解説するのはbII、bIII、bVI、bVIIです。

 

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 このbIII、bVI、bVIIはサブドミナントマイナー同様、同主調出身のコードです。残りのbIIは同主調出身ではなく、*「ちょっとよくわからないスケール」からやってきたコードです。

 しかし、「ちょっとよくわからないスケール」出身という、一見、意味不明なコードですが、起源は古く、それは18世紀ヨーロッパまでさかのぼります。

 

<用語解説>

*ちょっとよくわからないスケール・・・フリジアンスケール(Phrigian Scale)

 

ナポリの和音(Neapolitan Chord)>

 18世紀当時の、現在のイタリアの南半分にナポリ王国という国がありました。

*☆・・・現在でも存在する都市、ナポリ

*境界線はテキトーです。

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出典:Google Earth

 

 このナポリ王国にイタリアオペラや当時の西洋音楽に影響を与えた*ヤバイ作曲家集団がいました。このヤバイ作曲家集団はナポリ学派(Neapolitan School)と呼ばれました。

 

<用語解説>

ヤバイ作曲家集団・・・代表的なのはスカルラッティなど

 

 このナポリ学派の特徴として、マイナーの曲において、主和音(トニック)の半音上の長和音(メジャートライアド)からトニックに帰る、というテクニックを使っていました。

 このマイナーの曲におけるbIIの和音はそのナポリ学派がよく使っていたということで、ナポリの和音(Neapolitan Chord)と現在でも呼ばれます。

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ナポリの和音(Neapolitan Chord)

 

 このbIIはマイナースケール上にはありません。どこからこの発想を得たのかはわかりませんが、こういう意味不明なテクニックを普通に使うナポリ学派は結構な勢いでイイね!とリツイートを獲得し、後のクラシックの作曲家にも影響を与えました。

 

 ナポリの和音であるbIIとbIII、bVI、bVII、これらを合わせて現代のポピュラー音楽ではモーダルインターチェンジ(Modal Interchange)と呼ばれます。

 

<bII>

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Haydn-Piano sonata No36.1

  ナポリの和音は上記の例のように、マイナーの曲の中で使うのが一般的だったようです。

 ちょっとよくわからないので違う例を聞いてみましょう。

 

<bIII>

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Night and Day / Cole Porter

 1932年のミュージカル曲、ジャズスタンダードにもなっている、コール・ポーターの「Night and Day」。赤四角にご注目。

 bIIIがドンっと置かれています。結構「何か変わった感」がします。

 

 

<bVI, bVII> 

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Harry's Wondrous World / John Williams

   *原曲より簡略化しています

 

    映画ハリー・ポッターシリーズから「ハリーと不思議な世界」です。

 違う世界に行ってしまったような、かなりインパクトの強いサウンドがします。

 

 

 

 

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ウィーアー! / 作曲:田中公平 作詞:藤林聖子

 ワンピースの初期オープニングとして有名な「ウィーアー!」です。

 曲の終結部に使われていますが、実はこれが定石と言いますか、モーダルインターチェンジのよくある使い方です。

 モーダルインターチェンジからのトニックで一旦終わらせると、インパクトがあるかつ、納まりの良い終わり方ができるので、使い勝手が良いです。特に、このbVI→bVII→Iという流れは覚えていて損はありません。

 

 

 

 

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キラキラ / 作詞曲:aiko

 ところが、aikoさんはこのモーダルインターチェンジを曲のしょっぱなからいきなり使っています。最初にモーダルインターチェンジを使うと「変わった感」もくそもないのですが、ほんの一瞬だけ使って、あとは元のキーに戻っているので、曲のキーが曖昧になることはないし、 さらに「スパイス感」を出すことができます。 

 

 

 <まとめ>

 このようにモーダルインターチェンジは素人でも注意するとわかるような、結構インパクトが強いサウンドがするので、古今東西、様々な作曲家が好んで使います。そのインパクトのサウンドゆえ、特に映画音楽やゲーム音楽でよく使われます。

 しかし、結構昔から人気のあるテクニックなので、今の作曲家がモーダルインターチェンジを”あるある手法”で使ってしまうと、「はいはいモーダルインターチェンジねwww」みたいなことを言う理論*厨もたぶんいます。(筆者の主観です)

 

*厨・・・ネット上で自慢したり、自分の知識をひけらかしたりするユーザーを馬鹿にした呼び方。

 

 っていうぐらい、皆がよく使うモーダルインターチェンジなのですが、中には面白い使い方をしている曲も多々あります。次回もあと少しモーダルインターチェンジを解説していきます。

 

 

    

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他のキーからコードをパクる借用和音①<サブドミナントマイナー>

 以前、#や♭の数が変わるってどういうこと?<転調のはじめ 〜調と共感覚〜>で「新しい#やbを使うとなんかいい感じになる」ということを学びました。めちゃくちゃざっくり言って、その「なんかいい感じになる」現象が"転調"です。

taka-musictheory.hatenablog.jp

 

  その記事の中で、キラキラ星のハ長調(C major)バージョンとハ短調(C minor) バージョンで比較してみました。

 

キラキラ星 ハ長調(C major) #とbなし

キラキラ星 ハ短調(C minor)  b3つ

 

 まぁ、全然違いますよね。

 

ところで、このハ長調ハ短調、調号は違えど、主音が同じです。

 

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 このハ長調ハ短調のように、主音同じ、長調-短調の関係を同主調(Parallel Key)と言います。ちなみに、それぞれのダイアトニックコードが以下です。

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    今回、この中で注目したいのはIV-Iというサブドミナントからトニックへの進行です。

 「コードは3つの種類に分けられる<音楽における"機能"とは>」で勉強した通り、サブドミナントとはスケールの下から4番目の和音で、「IV-I」はよくあるカデンツの1つでした。

taka-musictheory.hatenablog.jp

 

 早速聴いてみましょう。

    IV-I

 柔らかい響きですね。 

 

 じゃあ、IVの代わりに、同主調にあるIVmを使ったらどうなるのでしょうか?

 

 短調由来の暗い和音と長調由来の明るい和音が混在していて、なんかいい感じになっています。これは是非とも作曲に応用したいですね。

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上:C majorのダイアトニックコード 下:C minorのダイアトニックコード

 このように一時的に他のキーからコードをパクる感じを借用和音(Borrowed Chord)と言い、特に同主調からの借用和音を準固有和音と言います。

 ポピュラー音楽の世界では、同主調からパクってきたIVmを、サブドミナントのマイナー版ということで、サブドミナントマイナーと言います。

 

  まとめるとこんな感じです。

 

他のキーからパクってきた和音・・・借用和音←広い意味

 同主調からパクってきた和音・・・準固有和音←狭い意味

  同主調からパクってきたIVm・・・サブドミナントマイナー

 

  前置きが少し長くなりましたが、今回はサブドミナントマイナーを扱っていきます。

 

 サブドミナントマイナーはIVmだけではなく、他にもいくつかあります。

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ハ長調(C major)のサブドミナントマイナー

 どれにせよ、同主調からパクってきたコードです。(多分)よく見かけるのはIVmです。

 よく見ると、その調の6番目をフラットした音(b6、ここではラb)がすべてのコードに見受けられます。これがサブドミナントマイナーの特徴です。b6が見られたら、まずはサブドミナントマイナーを疑った方がいいです。

 

 正直、これら以外にもサブドミナントマイナーはあるのですが、ジャンルによって捉え方が違うし、説明もややこしくなってくるので、「代理コード」や「リハーモナイズ」を扱う時に詳しく説明しようかなと思っています。

 

 では、まず、サブドミナントマイナーの一般的な使い方をしている曲が、まずはこちらです。

*大人の事情でメロディーをそれとなくわかる感じで

*音源はすべて打ち込みです

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上を向いて歩こう」作曲:中村八大 作詞:永六輔

 

 この曲は#1つでト長調ですから、同主調ト短調です。それぞれのダイアトニックコードを見てましょう。

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 上段は普通に曲のキーであるト長調のIV、Cを使っています。

 が、対比として、同主調であるト短調のIVm、Cmを使っていますね。

 

 IVmはIに進行していますが、サブドミナントマイナーからトニック(IVm-I)というパターンが普遍的なサブドミナントマイナーの使い方です。

 

 ・・・まぁ、普通にいい曲ですね。

 

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となりのトトロ」作曲:久石譲 作詞:宮崎駿

 

 

 この曲はb1個なのでへ長調です。IVのBbの代わりにサブドミナントマイナーBbmを使っています。

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「お母さんと会えて良かったね」感がすごい出ていますね。

 

 

 次はクラシックです。

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Mazuruka op.17 No.3 / Chopin

 

*フラット4つ(シミラレにb)の変イ長調の曲です。

 

  この曲ではIVmではなく、VIIdim7を連続で使っていますね。筆者的には連続で使いすぎてあまりありがたみが感じませんが・・・

 

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BWV 245-3 / Herzliebster Jesu, was hast du verbrochen / Johann Sebastian Bach

  

 バッハもIVmを使っていますが、転回形を使って半音上に下行するベースラインも同時に作り出しています。300年前にこの発想とは、やはり頭一つずば抜けています。ベースラインにも注意して聴いてみてください。一番低い男性の声で「あ〜」って歌ってるやつがそれです。

 

最後の例です。

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「夏色」作曲:北川悠仁 作詞:北川悠仁

 サブドミナントのIVから直接、トニックのIへ行かずに、サブドミナントマイナー のIVmを挟み込みました。 夏が終わるような、そんな切なさがありますね。

 

 <まとめ>

 「違うキーからコードをパクってくる」、それが借用和音の発想の仕方でした。中でも、サブドミナントマイナーサブドミナントの代わりに同主調サブドミナントをパクってるという手法でした。この同主調の関係はキラキラ星の例でも見たように、サウンド、雰囲気の違いが大きいので、サブドミナントマイナーの効果は絶大です。

  ところで、「違うキーからコードをパクってくる」発想があるということは、サブドミナントマイナー以外にも借用和音の種類がある、ということになります。

 ということで次回は「モーダルインターチェンジ」について取り上げようと思います。

 

エモさを与えるセカンダリードミナント<セカンダリードミナントのパターンをすべて調べてみた>

  以前、コードは3つの種類に分けられる<音楽における"機能"とは> https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/03/14/191452 の中で、音楽はトニック、サブドミナントドミナントの3つで作られている、と述べました。

 その中で最も初歩的かつ基礎的な進行が「V7→I」という流れです。

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 逆にこの「V7→I」だけでシンプルな曲を作れることができます。

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メリーさんの羊:アメリカ民謡

 ↑すいません、めっちゃテキトーに弾いてしまいました。DAWの音とは思えません。 

 これらの和音の中でも、一番シンプルな組み合わせが、5番目の和音から1番目の和音という「V7(G7)→I(C)」なのです。上の2つの例を聴くと、なかなか安定した、きれいなサウンドの流れです。なので、この「5」から「1」という流れは音楽では重要かつ基礎的なものと考えられています。

 

 じゃあ、他の和音にも「5」から「1」の流れを無理矢理作ることができるんじゃね!? 

 

 みたいな発想を昔、頭が柔軟な人が(たぶん)考えました。

 

 うむ・・・ちょっとよくわかりませんね・・・

 

セカンダリドミナント

 コードとスケール編②<古典派作曲家からコードを学ぶ(ついでにアナライズも)〜ハイドン編〜>https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/02/19/015743 で、スケールのそれぞれの音から団子を作ると和音ができ、それらをダイアトニックコードと呼ぶ、と述べました。

 下図のように、「G7→C」という流れを他の和音(ダイアトニックコード)にあてはめることはできないのでしょうか?

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 まず、手本となるG7とCが完全5度の関係になっていますから、それを当てはめなければいけません。そうするとこうなります。

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Cメジャー(ハ長調)のセカンダリドミナント

 できました!!

 各コードを「1」と仮定して「5→1」の流れを作ることによって、「V7→I」のクローンみたいなものを量産することができました。この「『V7→I』のクローンみたいなもの」の「○7」のところをセカンダリドミナントと言います。

 *ちなみに「V7→I」、例えば、上図のG7はクローン元なのでセカンダリドミナントとは言いません。  

 

<作り方・表記法>

 作り方は簡単です。

①進みたいコードは?

 ここではG majorにしましょうか。

②そのコードのルートの完全五度上は? 

 G majorのルートはGですから、その完全五度上はDですね。

③それに「7」を付けてください。

 ぺちょ。D7。

 終わりです。

 

 例えば、ハ長調の場合、G majorは下5番目の和音です。なのでD7はV7/Vとローマ数字で表します。「V7/5」はダメです。要するにこんな形になります。

 

これは変わらない

  ↓

 V7 / ○ ←に進みたいコードのローマ数字を入れる。

 

<Attention!!>

 長調、メジャースケールにおいて、V7/VIIはありません。

 恥ずかしながら、これは筆者も知らなかったのですが、←まぁ確かに見たことない    

なんでかな〜と思って調べてみましたがとネットにそれらしいものは載っていませんでした。しかし、「Tornal Harmony with an Introduction to twentieth-century music」という著書の中で、

 

「Because tonic triads are major or minor, it makes sense that only major and minor triads can be tonicized by secondary dominats.」

(トニックの三和音は長和音(メジャー)か短和音(マイナー)であるから、長3和音と短3和音だけがセカンダリドミナントによってトニック化できるのは明確である。)

 訳:筆者

 

 7th Edition Tornal Harmony with an Introduction to twentieth-century music

    Stefan Kostka, Dorothy Payne, Byron Almen     

    page.245

 

 と書いてありました。

 まぁ書いてあることは少々意味不明なのですが、要するに、セカンダリドミナントが進むことができるコードはメジャーとマイナーだけ、ということです。

 なので、ディミニッシュコードには進むことができないらしいので、メジャースケールの中で、V7/VIIは無い、ということになっています。

 

セカンダリドミナントを聴いてみよう>

 もう一度先程の図をご覧ください。

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 上の図は#とbが0個のハ長調(Cメジャースケール)のセカンダリドミナントです。

 セカンダリドミナントを作ると、ご覧の通り、そのスケールにはない#やbが出てくるのがわかります。そのキーにはない#やbが出てくるので、セカンダリドミナントを使うと「なんかエモい感じ」を作ることができます。

 ではその「なんかエモい感じ」とはどんな感じなのでしょうか?V7/IIから順番に、実際に曲を聴いてみましょう。

 

*大人の事情でメロディーなしで、コード進行だけ流れます。

 

<V7/II>

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「かたちあるもの」作曲:小松清人 作詞:柴崎コウ山本成美

 TBSドラマ「世界の中心で愛を叫ぶ」の主題歌、「かたちあるもの」です。

 曲がそもそもエモいので、よくわかりませんね・・・

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「時代」作曲:中島みゆき 作詞:中島みゆき

 なんか曲が一瞬明るくなりますね・・・

 

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「花火」作曲:aiko 作詞:aiko

 これもエモい・・・

 1回目はDm7ですが、2回目はV7/IIのD7を使って上手く対比を作っています。見事な使い方です。 

 

<V7/III>

 V7/IIIはJ-popに見つけることはできませんでした・・・探したらあるかもしれません。

 以下は古いジャズスタンダードナンバー、「All God's Chillun Got Rhythm」です。

 ジャズではV7/IIIは多い気がしますね。

*調子記号はありませんが、b1つのへ長調です。

 

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「All God's Chillun Got Rhythm」Walter Jurmann, Gus Kahn and Bronisław Kaper 出典:Realbook2

 

 <V7/IV>

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「ソンナコトナイヨ」作曲:柳沢英樹 作詞:秋元康

 日向坂46のニューシングル、「ソンナコトナイヨ」です。穏やかな感じがしますね。  

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旅立ちの日に」作曲:坂本浩美 作詞:小嶋登

 卒業式の定番ソング、「旅立ちの日に」です。 

 一瞬ですが、IVに進みたい感じが出てきます。

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「目抜き通り」作曲:椎名林檎 作詞:椎名林檎

 穏やかで優しい印象がします。

 ところで、ここでのV7/IVは完全5度下に進んでいませんが、そういう「ツンデレ的な」使い方もありです。また、違う機会で説明しましょう。

 

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Tips:subV7とは?

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 コードは3つの種類に分けられる<音楽における"機能"とは>https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/03/14/191452セブンスコードの3rdと7thをトライトーン(三全音)と言いました。同じトライトーンを持つセブンスコードを代わりに使うことができます。その代わりのコードを代理和音(Substition Chord)と言います。(subはSubstitionの略です。)

 上の「目抜き通り」の最後から2小節目の例で言うと、Gb7と同じトライトーン(ミとシb)はC7です。Gb7はC7の代理和音です。この代理和音については、また機会に深く取り上げましょう。

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涙そうそう」作曲:BEGIN 作詞:森山良子

  筆者はV7/IVの中で、この「涙そうそう」が一番良い例だと思います。

 めちゃくちゃ美しいですね。涙がポロポロこぼれそうになります。

 

 <V7/V>

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鉄腕アトム」作曲:高井達夫 作詞:谷川俊太郎

  明るくて、元気になれるサウンドです。←ってか作詞って谷川駿太郎さんだったんですね。

 

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ドラえもんのうた」作曲:菊池俊輔 作詞:楠部工

  大山ドラ派のために。

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「夢をかなえてドラえもん」作曲:黒須克彦 作詞:黒須克彦

 わさドラ派のために。

 どうやら、V7/Vは幼児向けアニメでよく使われるようです。

 

 さて、セカンダリドミナントは現代特有の発想ではありません。300年も前から使われています。

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Piano Sonata No.21, Op.53 / Ludwig van Beethoven / 出典:imslp

 通称、「ワルトシュタイン」と呼ばれる、ベートベンのピアノソナタです。

 ベートーベンはセカンダリドミナントと転回系を組み合わせて、ベース音をずっと「ド」にしています。ベートーベンはやはり頭一つ、飛び抜けています。

 

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ゼルダの伝説 メインテーマ」作曲:近藤浩治

 あまりにも有名な、「ゼルダの伝説」のメインテーマです。

 なんか、勇気がわいてきますね。

 

 

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「ボーイフレンド(サビ) 作曲:aiko 作詞:aiko

 「Ah〜〜〜」と感情的な歌詞にセカンダリドミナントを持ってきていますね。

 2段目ではV7/II、V7/Vを連続で使っています。こういう使い方もあるんですね。

 

<V7/VI> 

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「YUME日和」作曲:宮崎歩 作詞:小幡英之

 映画「ドラえもん のび太とワンニャン時空伝」の主題歌、「YUME日和」です。懐かしいですね。

 これはエモい。

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「守ってあげたい」作曲:松任谷由実 作詞:松任谷由実

  すごい切ない感じがします。

 

 

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「Love So Sweet」作曲:Youth Case 作詞:Spin

  

  

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「Happiness」作曲:岡田実音 作詞:Wonderland

 

 

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「ボーイフレンド(Aメロ)」作曲:aiko 作詞:aiko

  やはり、aikoさんは感情的で、主張的な部分にセカンダリドミナントを当てているようです。歌詞とセカンダリドミナントは関係あることが考えられます。

 よっぽど「早く会って言いたい」んでしょうね。

 

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世界中の誰よりきっと」作曲:織田哲郎 作詞:上杉昇 中山美穂

 

 こちら心がキュッとなるような感じがしますね。

 

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「赤いスイートピー」作曲:呉代軽穂 作詞:松本隆

 この切ないサウンドと歌詞の内容がものすごくマッチしています。

 

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「しあわせの保護色」作曲:MASANORI URA 作詞:秋元康

 乃木坂46のニューシングル、「しあわせ」の保護色です。

 V7/VIの切ないサウンドのおかげでネガティブな歌詞に説得力を与えています。

 一方、下段のポジティブな歌詞ではV7/Vの明るいサウンドを使っています。

  

 J-Popを調べてみると、V7/VIの出現率が一番多いような気がしました。V7/VIが持つ切ないサウンドは日本人の心に合うのかもしれません。

 <おまけ・V7/VII> 

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インフルエンサー」作曲:すみだしんや 作詞:秋元康

 VIIに対するセカンダリドミナントはこの曲しか見つかりませんでした。代理和音ですが、貴重な曲例なので一応載せておきます。

 *マイナースケールでのVIIはメジャーコードです。 

 

<まとめ>

 セカンダリドミナントを一瞬、忍ばせることで独特の「エモさ」を作ることができることは、なんとなく感じられたと思います。注意したいのは、やはり使いすぎると、セカンダリドミナントが持つ「エモさ」が消えてしまうことです。一瞬だけ使うことがセカンダリドミナントのコツなようです。

 また、筆者が調べていて興味深いと感じた点は、セカンダリドミナントと歌詞の関係性です。いくつかの曲の中で、感情的、または作曲者が特に主張したい部分にセカンダリドミナントを置いている傾向が見られます。aikoさんは作詞と作曲を両方をしているので、それが顕著だと思います。まだ筆者も2曲しか調べていないので、推測の域ですが、セカンダリドミナントと歌詞の2面から調べて見ると、コード進行と歌詞の関係について新たな発見があるかもしれません。

 

 

 

 

 

  

 

音楽と哲学①<「読書について」ショーペン・ハウエル>

 あぁ〜ちょっとショーペンハウエルの「読書について」でも読んでみるか〜。

 

 『数量がいかに豊かでも、整理がついていかなければ蔵書の効用はおぼつかなく、(中略)いかに多量にかき集めても、自分で考えぬいた知識でなければその価値は疑問で、量では断然見劣りしても、いくども考え抜いた知識であればその価値ははるかに高い。』

 

 いっぱい本を読んでも、自分で考えないと意味ないんだなぁ。

 

 『読書で生涯をすごし、さまざまな本から知恵をくみとった人は、旅行案内所をいく冊も読んで、ある土地に精通した人のようなものである。(中略)これと対照的なのが、生涯を思索に費やした人で、いわば自分でその土地に旅した人の立場にある。』

 

 本ばかりから知識を集めた人はただの雑学好きなのかぁ。

 

 『(前略)一般に天才の作品には、どの部分にも精神がくまなく行き渡っていて、それが常に作品の特徴をなしているからである。』

 

 ちょっとよくわからんが、すごい作品は細かい所にもこだわっているということなのか・・・?

 

『表現の簡潔さとは、真の意味ではいつもただ言うだけでの価値があることだけを言い、誰でも考えつきそうなことにはいっさい、冗長な説明を加えないこと、必要なものと不要なものとを正しく区別することである。』

 

 simple is the bestですね。そういえば先生が「即興演奏はシンプルなこと積み重ね的」なことを言ってたな〜。

 

 『なげやり調にものを書くのは、自分の思想にあまり価値をおいていないことを、初めから告白するようなものである。』

 

 ちょっとこのブログもやばいっすね・・・

 

 『人間はまだ一度にただ一つのことしか、明瞭に考えられない動物である。文章作成に当たっては、まずこの事実に何よりも注意をはらうべきであろう。だから一度に二つも三つものことまでも考えさせようというのは、人間に対して無理な要求である。』

 

 1文章につき1テーマってことですね。このブログを書くときにも気をつけよ。

 

 『熟慮を重ねることによってのみ、読まれたものは、真に読者のものとなる。食物は食べることによってではなく、消化によって我々を養うのである。それとは逆に、絶えず読むだけで、読んだことを後でさらに考えてみなければ、精神の中に根をおろすこともなく、多くは失われてしまう。』

 

 やっぱり読んだ後で、自分でも考えないと意味がないってことかぁ〜。

 

 『多数の読者がそのつどむさぼり読むものに、我遅れじとばかり、手を出さないことである。(中略)すなわちあらゆる時代、あらゆる民族の生んだ天才の作品だけを熟読するべきである。』

 

 流行っているから、皆聞いているからといって、勉強するのはあんまり良くないのか。昔から残っている、天才の名作を勉強する方がいいんだな。

 

 『『反復』は研究の母なり。』重要な書物はいかなるものでも、続けて二度読むべ機である。それというのも、二度目になると、その事柄のつながりがより良く理解されるし、すでに結論を知っているので、重要な発端の部分も正しく理解されるからである。』

 

 なるほど。楽曲分析も1回で終わるんではなくて、2週すると違う発見が得られるんだな。そういえば、国公立大を目指すめちゃくちゃ賢い奴が*チャート青を何週もやってたな〜。

 *チャート青・・・大学受験数学の鉄板の問題集

 

 この本結構難しかったけど、要するに、読むだけじゃなくて、良い本を何回も読んで自分でも考えることが大事、って作者は言いたいんだな。

 

 

 

 

 

ゆるく、適当な感じでキーを特定してみる

前回の記事https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/04/17/050322で「転調」について簡単に、ゆるく説明しました。せっかくですからキーを特定する方法について軽く取り上げたいと思います。 

 

〜お約束〜

 そもそも初めは各スケールの#とbの個数を覚えないと話にならないので、頑張って覚えましょう。

*ちなみに文字の色は、筆者の各調に対する、大体の色のイメージです。変ニ長調はキラキラ光ってる感じです。

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各スケールの#とbの数一覧表

 *調によって#とbの数が理由が変わる理由はこちら↓

  コードとスケール編③<古典派作曲家からコードを学ぶ 〜#とbの数が変わる理由>https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/02/23/184334

 

<調判定するためのヒント>

・楽譜がある時٩( ᐛ )و

LEVEL 1:#と♭の数

 曲の冒頭で指示されている#・bを調子記号(Key Signature)と言います。#bの数が決まった時点で、あとは長調短調の2択です。 下の例の場合はbが1つあるのでへ長調(F major)かニ短調(D minor)のどちらかです。

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Mozart-piano sonata-no12-KV332 出典:imslp

 

LEVEL 2:コードと機能で判断

 コードもヒントになります。1小節目はF majorですね。21世紀となった現代でも、まぁ大体50〜60%の確率で曲はトニック(I)から始まります。F majorをトニックに持つ、ということでこの曲はへ長調(F major)ですね。

 

LEVEL 3:歴史的な知識

 バッハのバロック時代からモーツァルトなどの古典派の時代はほぼ100%の確率でトニックから始まり、トニックで終わります。ショパンなどのロマン派以降になると、「別にトニックから始まらなくてよくね?」みたいな雰囲気が出てきて、ドミナントなどから始まる例もあります。(ショパンエチュード「革命」はG7から始まる)

 なので、そういった音楽史の知識もヒントになります。

 

・楽譜がない時( ;∀;)

LEVEL 4:全部耳で判断

 自分の持つ音楽理論の知識と耳コピ力を駆使して判断します。むずいです。

 

<実際にキーを見つけてみよう>

 モーツァルトピアノソナタ15番K545を題材に曲のキーを判定する練習をしましょう。

 まずは、曲全体としてのキーを見つけます。

 クラシックの世界ではよく、「〜〜 第○番 〜〜調」というタイトルがありがちです。クラシックでは特に何調かというのがなぜか大事らしいです。「星野源 恋 ニ長調」とは言いませんよね。この「〜〜調」にあたる部分が曲の全体としてのキーです。

 

 ここからひとり言的な感じで解説して行きます。 

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1〜13小節目

 

 「#とbの数が0だからハ長調イ短調・・・モーツァルトの曲だし、最初のコードがC majorだから、まぁハ長調で決まりでしょ」

 先を見ても、#とbが出てこないので、まぁハ長調(C major)で決まりでしょうね。ということで「モーツァルト ピアノソナタ第15番ハ長調」でタイトルは決まりです。

 

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14〜24小節目

 

 「なんか#が1個ついたな〜。他には#ついてないし、G majorからフレーズが始まってるから、ト長調に転調したっぽいな〜。続き見てみるか〜。」

 

 続きを見てみましょう。

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25〜28小節目

  「G majorで終わってるし、このエリアはト長調(G major)だわ」

 

 ハ長調からト長調に転調しましたね。

 

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29〜32小節目

 Gmで始まってるから、ト短調で決まりや」

 

  と、まぁ適当な感じで決まります。

 

 「ミとファ#があるから、旋律(的短音階)の方で」

 

 短調の場合、自然・旋律・和声的短音階の3種類あるので、特定がめちゃくちゃめんどくさいです。

 

 「なんかド#が出てきたな・・・また転調っぽいな・・・」

 「なんか下にイ長調っぽいフレーズがあるけど、この状況でここだけイ長調とかありえるか・・・?」

 「・・・・・無視で。」

 

  濃いピンクで囲まれているド#をご覧ください。ト短調にド#はありません。転調っぽいので、もうちょっと先を見てみましょう。

 

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33〜35小節目

 「Dmがあるからやっぱりニ短調

 

 DmとA7が出てきました。トニック(Dm)とドミナント(A7)の関係になっているので、ニ短調がしっくりきます。

 

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36〜41小節目

 「和音がねぇ・・・」

 「ファとソだけに#がついてるのはイ短調しか」

 

 こういうヒントがメロディーと調号だけというケースが一番難しいです。さらに難しくなると、理論知識と音楽的経験の両方が求められます。

 上図の場合、ファとソだけに#がつく(ファに#がつかなかったり)キーはイ短調しかありません。

 

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42〜49小節目

 「F majorから始まってるし、bが1つだけだし、へ長調に転調だな」 

 

 新しく今度は♭が1つつきました。♭が1つだけの調はへ長調ニ短調ですが、F majorから始まっているので、へ長調で決まりです。

 

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50〜55小節目

 「なんかシにナチュラルがついたな」

 「C, Dm7, G7, Fがあるからハ長調にそれとなく転調したっぽい」

 

 シにナチュラルがついて、結果的に#bは0になりました。コードを調べてみると、Dm7, G7, Cがみられます。きれいなサブドミナントドミナントートニックができていますから、ハ長調と予測されます。続きを見てみましょう。

 

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56小節目〜終わりまで

 ハ長調に戻ってきたな。やっぱモーツァルトは天才だわ。」

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 C majorから始まり、C majorで曲が終わっているのでやはり、ハ長調で間違いないようです。しかし、これのどこが「天才」なんでしょう?

 

<転調の全体図>

 この曲の全体図です。この曲の各キーで色で分けてみました。

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 ハ長調で始まった後(赤)、次にト長調に転調します(オレンジ)。

 

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  そして、ト短調(紫)、ニ短調(ピンク)、イ短調(青)とあちらこちらに行きます。

 続いて、へ長調(緑)に転調した後、最後に初めのハ長調(赤)に戻ってきます。

 

 モーツァルトあたりの時代の曲は、どこへ転調しようが、初めと終わりのキーを一致させるという「縛り」のようなものがあります。この曲の場合、ハ長調で始まったので、ハ長調で終わらないといけません。要は「ハ長調ー色々な調ーハ長調」みたいな感じで「サンドイッチ」にしないといけません。

 

 色々あっちこっちに転調させた挙句、きれいにハ長調で始まり、ハ長調で締める、という所業は中々計算された芸術です。

 まぁこれだけでもやばいのですが、もっとやばいのが、モーツァルトはこれを頭の中で全部スラスラっとやってのけちゃうところです。

 といっても、「ハ長調から始まって〜、ここに転調して、こっちに転調したら、きれいにハ長調で終われるな」という暗算的な感じではなく、勝手に頭に流れてくるものを楽譜にした結果がこれです。

 紙に構想と全体をメモして、作曲するならまだわかるのですが、勝手に閃いちゃうとなると凡人はお手上げです。

 

<まとめ>

 今回は説明不足な感じになってしまいました。「ここに#があるのに、これは無視か!?」みたいな点はあったと思います。キーを判定するのは、そもそも結構難しく、今まで取り扱った内容だけですべてを判断するには不十分です。

 今回の記事では筆者のキーの判定方法をゆるい感じでお伝えしました。記事のテーマが豊富になってから、また「調判定」や「転調」について取り上げたいと思います。

 

 

 
   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

#や♭の数が変わるってどういうこと?<転調のはじめ 〜調と共感覚〜>

 転調とは「曲の中である調(key)から違う調に変わる、転ずること」です。

 

「調が変わるということ」は、めちゃくちゃざっくり言うと、#やbの数が変わることです。では、#やbの数が変わるとどうなるのでしょうか?とりあえず、この曲を聴いてみてましょう。

 Smoke Gets in Your Eyes / Jerome Kern   

 

 これは1933年アメリカのミュージカル曲であり、ジャズスタンダードである「Smoke Gets in Your Eyes」です。*邦題:「煙が目にしみる」

 曲を聴いてみて、途中で「!?」と、なんか雰囲気変わったな、みたいな部分がありました。

 この「なんか雰囲気変わったな」現象が転調の効果です。「なんか雰囲気変わったな」現象を使うとなんとなく曲が面白くなるので、作曲する上で「なんか雰囲気変わったな現象」を使うことは当たり前のようになっています。

 

 #やbの数が変わるとどうなるのか。少し実験してみましょう。

 

  キラキラ星を全てのキーに変えてみました。原曲はハ長調、C majorですから#やbはありません。これに#やbの数を1つずつ加えていってみましょう。 

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参考:各キーの#、bの数 一覧

 

 まずは原曲↓

キラキラ星 ハ長調(C major) #とbなし

キラキラ星 へ長調(F major)  b

キラキラ星 ト長調(G major)  # 

キラキラ星 変ロ長調(Bb major)  bb

キラキラ星 ニ長調(D major)  ## 

キラキラ星 変ホ長調(Eb major)  bbb

キラキラ星 イ長調(A major)  ###

キラキラ星 変イ長調(Ab major)  bbbb 

キラキラ星 ホ長調(E major)  #### 

キラキラ星 変ニ長調(Db major)  bbbbb

キラキラ星 ロ長調(B major)  ##### 

キラキラ星 変ト長調(Gb major)  bbbbbb 

 

 言葉でそれぞれ表すのは難しいですが、各キーによって独特の雰囲気というか、世界観のようなものを持っているというのは感じられますか?

 ちなみに筆者は原曲のハ長調(C major) よりも変ニ長調(Db major) の方が星の「キラキラ感」が感じられます。

  ついでにキラキラ星をマイナーにしてみましょう。 

 

キラキラ星 ハ短調(C minor)  bbb

 暗っ・・・

 さすがに明るい長調から暗い短調は違いが明らかです・・・

 

 曲の中での転調の仕方は大きく分けて、「長いやつ」と「まぁ長いやつ」「一瞬のやつ」の3つあります。

・曲頭で数を変えて大胆に転調したり・・・(長いやつ)

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Polonaise no.6 "Heroic" in a-flat major op.53 / Chopin  出典元:imslp

・音符に#やbをつけてさらりと転調としたり・・・(まぁ長いやつ)

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Piano Sonata in C major, No 16, K 545, Allegro / Morzart 出典元:imslp

・それとなく#bをつけたり・・・(一瞬のやつ)

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Nocturne op.9 No.1 / Chopin 出典元:imslp

 と、まぁこんな感じで3つあります。
 ちなみに、すぐ上の「一瞬のやつ」は一般的には「部分転調」と言います。しかし、人によっては転調じゃないとか、転調だって言う人の2つに分かれます。筆者はどちらかというと「転調じゃない」派ですが、議論がめんどくさいので「別にどっちでも良い」と思っているのが本音です。

 

 先程、いろんなキーのキラキラ星で、キー、つまり#やbの数によって印象が違う、ということを学びました。しかし、1番の問題は「その各々のキーの印象をどういうふうに選んで、どう転調させるか?」というところにあります。

 長調短調が12種類ずつあるので、全部で24種類ものキーがあります。ある1つのキーから違う他のキーに転調させるとなれば、23種類の中から選ばないといけません。確かに、その23種類の中からなんでも任意に選んでも良いのですが、「その任意に選んだ根拠は何か?」という疑問が生まれます。

 

 それを解決する1つのヒントは共感覚と筆者は考えます。

 

共感覚

 共感覚とは1つのある刺激に対して、別の刺激を感じることです。

 例えば、数字に色が見えたり、味覚に形が見えたりする人が世界には存在します。

              

     3

 ↑3を赤で塗りましたが、3が青く見えたり、黄色に見えたりする人にとってはこの赤い3がキモく見えるわけです。

 そういう意味では読者のみなさんにも共感覚のようなものはあると思います。例えば・・・

      Yellow あか

 きもいですよね・・・?言葉の意味と色が一致していません。これも共感覚のひとつだと筆者は思います。

 

 さて、音楽の世界では音やキーに色が見える人がたまにいます。これを色調と言います。「色調共感覚者の一貫性実験によるクロスモーダルマッピング」という論文の中でこんなものを見つけました。

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色調共感覚者に一貫性実験によるクロスモーダルマッピングー蔡東生、丁策立、page5、図5 出典:情報処理学会研究報告

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色調共感覚者に一貫性実験によるクロスモーダルマッピングー蔡東生、丁策立、page5、図6 出典:情報処理学会研究報告

 上の2つの図は共感覚者に対して、キーと色の関係性を表したものです。2種類あるのは人によって感じ方が違うかららしいのですが、おおよそこの2種類に分けられるっぽいです。例えば、「C」(ハ長調の意味)には白系と赤系が見られますね。ただ長調(外側の円)より短調(内側の円)の方が暗いことは共通していますね。
 

 個人の差があるにしろ、人によってキーに色が見えているようです。

 しかし、音楽経験者であろうとなかろうと、先ほどの「キラキラ星」の例を聞けば、色が「見える」とまではいかないが、こう言われてみれば、なんとなく色が「心に浮かぶ」人が多いのではないでしょうか。

 

 調、キーに色があるとすれば、曲を転調させる際の「調の選択」は色塗りに例えられる、と筆者は思います。作曲者が色塗りするような感覚でキーを選んでいるならば、任意かつランダムに選ばれているような選択に作曲者の感覚的な意図が感じられます。

 

<Smoke Gets in Your Eyesにおける転調>
 さて、はじめに紹介した「Smoke Gets in Your Eyes」に戻りましょう。

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Smoke Gets in Your Eyes / Jerome Kern

 「Smoke Gets in Your Eyes」のリードシートです。

 *こういうメロディーとコードシンボルしか書かれていない楽譜を「リードシート」と呼びます。

 曲の長さのバランスをみれば、「まぁ長いやつ」タイプの転調です。変ホ長調(Eb major)→ロ長調(B major)→変ホ長調(Eb major)の流れになっています。

 14小節目(4段目の2小節目)で「なんか雰囲気変わったな」現象が起きています。*1:16〜辺り

 「なんか雰囲気変わったな」現象を使うと、曲のカラーが変わってすごく新鮮というか、曲の面白みが増しました。これが転調の極意なのです。

 

<まとめ>

 キラキラ星の例で各キーは独特の印象やカラーを持つ、ということがわかりました。これらのカラーを1曲の中で塗り分けていくか、ということが転調の醍醐味であり、作曲者の腕の鳴りどころなのです。

 

 転調は「長いやつ」「まぁ長いやつ」「一瞬のやつ」に分けられます。これからの解説の進み方としては2通りあります。

<「長いやつ」方向>

 ・転調にどのようなパターンがある?

 ・曲の中でどんな転調のしかたをしているの?

 ・転調の歴史

 

 今回はさっと説明しましたが、「転調」をテーマにするだけで膨大なページを必要とします。それだけ転調と言うのは長い間先人達が関心を持ってきたことでした。

 

<「一瞬のやつ」方向>

セカンダリドミナント←new word!

サブドミナントマイナー←new word!

・モーダルインターチェンジ←new word!

 etc・・・

 

 「一瞬のやつ」転調は転調と言えるかビミョーなところなのですが、1テーマにつき1ページでさっと終われる感じなので、「一瞬のやつ」方向で解説を進みたいと思います。その前にキーの判断の仕方についても解説しとこうかなと思います。

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

音楽理論を独学で②<音楽理論は独学で十分か>

  前回の記事https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/04/13/082024でお気に入りの参考書を見つけました。では、それからどうやって音楽理論の学習を進めて行きましょうか?

 

①鍵盤を用意する

 理論を勉強する時はピアノを用意してください。(ギタリストはギターでもOK)

 ガチのピアノじゃなくても、MIDIキーボードでも、なんならピアノアプリでも良いので鍵盤を横に置いてください。黙って勉強するのが一番だめです。

 

 ピアノで勉強するメリットは以下です。

・触覚

 ピアノで誰でも音を出せる楽器です。指で鍵盤を弾きながら理論を勉強することで、頭と体で覚えます。

 

・視覚

 ピアノの鍵盤は白黒に色分けされている楽器から、目で理論を勉強できるメリットがあります。例えば、ト長調は黒が一つ(F#)、白が6つ、とかCmは両端が白(CとG)、真ん中が黒(Eb)とか・・・というふうにピアノは視覚で勉強でするのに有利です。

 

・聴覚

 音楽はそもそも耳で聴くものです。頭と耳で理論を理解する必要があります。ピアノには、音を出すだけという目的なら誰でも弾ける手軽さがあるので、積極的にピアノを使っていきましょう。

 

 音楽理論の勉強にピアノやギターなどの和音を鳴らせる楽器は必要不可欠です。目で見て、手で触って、耳で聴いて、頭で理解していきましょう。

 

②ノートを取りながら

 「書く」という動作は非常に効果があります。手と脳は連動していますから、書いた方が記憶は定着しやすいです。英語単語を覚える時、同じ単語を3回ずつ書いて覚えた方、たくさんいらっしゃるでしょう。

 「書く」といっても、音楽用語をむやみやたらに書くのではなく、自分がその日理解したこと、考えたことをノートに記録するのがオススメです。

 書くことで思考を整理でき、後で自分が以前に何を考えたか、何を学んだか、パッと見てわかります。

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筆者のノート。上に楽譜を貼り、余白に考えたことを自由に記述する。

 

③お気に入りの曲を分析してみる

 これが最も重要です。←大事なんで文字を赤く塗りました

 ある程度知識がついたら、お気に入りの曲の楽譜を手に入れて(または採譜して)、それを自分なりに分析してみましょう。 

 芸術には勉強で身につけた知識・経験を使って創作する、という最終目的があります。応用しない、できない知識など、どの学問にもありません。そもそも、理論に興味がある人は「自分も何か作ってみたい」というささいなきっかけがあって、興味が出始めたはず。

 お気に入り、尊敬するアーティストの創作物を分析して、自分なりの理論を作り、創作へのヒントにしましょう。それも立派な”勉強”です。

 

 しかし、「創作者がそもそも理論を意識して創作しているのか?」「分析しても、それは自分の勝手な解釈ではないのか?」という問題があります。理屈っぽい筆者もそんなことを考えていた時期がありました。が、高校時代の国語教師のこんな言葉が心に残っています。

 

 「作者が気づいていないことに気づけたら、それは読者の勝ち」

 

 うむ・・・。その先生はそれについて多くは語りませんでしたが(というより筆者が当時の授業についてあまり覚えていない)、妙に納得してしまいました。

 

 理論というのはあくまで誰かが考えたものです。それを吸収するだけでは、要するに”借り物の理論”を学んでいるだけにすぎません。むしろ、良い曲をたくさん分析して、「自分だけの理論」を構築することの方がよっぽど大事です。

 

<まとめ 〜専門教師のもとで学んだ方が良い?>

 講師のもとで学ぶ、というのも1つの手です。専門教師で学ぶメリットは

・自分が理解できていないところを指摘してくれる

・すぐ質問できる

 

 ことの2つが一番大きいと思います。しかし、知識を詰め込む作業である、理論の勉強については必ずしも教師は必要ない、と筆者は思います。確かに、専門機関の教師ならば確認テストを作ってくれたり、質問したらすぐ返ってきたりと、学習においては非常に効率の良い存在です。しかしながら、そういうメリットを差し置いても、理論は独学で十分、というのが筆者の考えです。そもそも、「理論を勉強したいから、じゃあ先生を探そう」というスタンスはむしろ消極的に感じます。教師のもとで学ぶなら、自分で最低限できることを学んでからにしたいものです。←音楽の専門機関は授業料が高いですから・・・

 

 音楽理論、といっても勉強することに変わりはありませんから、結局は”暗記””詰め込み”が必要になってきます。学習に暗記は絶対必要です。その点はもう諦めるしかないです。

 しかし、音楽理論の独学を始めようか、という読者は音楽好きで、真面目な方でしょうから、その学習への情熱と意欲があれば続くはずです。毎日続けなければいけないというルールもないですし、ゆっくり着実にやっていけばいいのではないでしょうか。