コードは3つの種類に分けられる<音楽における"機能"とは>
ドイツの音楽理論家、フーゴー・リーマン(1849~1919)はこう言いました。
和声はトニック、サブドミナント、ドミナントの3種類しかねぇぞ。
このトニック、サブドミナント、ドミナントとは何でしょうか?今回はそれについて取り上げたいと思います。↑前が少し禿げかけてますね。というか禿げてますね。
<まずはお約束>
以前、コードとスケール編②でスケールの各音から作られたお団子さん(和音)をダイアトニック・コードと呼ぶ、と述べました。その各和音には楽曲の研究、分析のために番号がつけられます。
下から順番に1、2、3・・・と数えられ、ローマ数字が用いられます。しかしながら、ポピュラー音楽とクラシック音楽の間で少し表記が違いがあります。
<ポピュラー音楽(ジャズなどのアメリカを起源に持つ音楽)>
ポピュラー音楽ではローマ数字とコードシンボルが合わさったような形です。例えば、Cメジャースケールの1番目の和音はCmaj7ですが、ローマ数字の「Ⅰ」とCmaj7の「maj7」を組み合わせて、「Imaj7」と表記します。ポピュラー音楽では「数字+コードシンボル」で表記する、と覚えてください。多くはジャズを分析する時に用いられ、音楽大学や専門機関のジャズ専攻などでよく使われます。
クラシック音楽での表記法ではポピュラー音楽のそれとは少し違います。
・短和音(マイナーコード)は小文字で表記
・三和音は数字だけで表し、四和音は「7」を添えるだけ
主に和声学でこの表記法使われます。クラシック音楽ではポピュラー音楽のように「maj7」や「min7」などの表記は用いません。そもそも、私達になじみ深いクラシック音楽はもともとヨーロッパで発達してきた音楽であって、ポピュラー音楽はアメリカなどで西洋音楽の後に発展してきた音楽です。ヨーロッパとアメリカの公用語・文化が違うように、音楽界での表記の仕方も違います。けなすつもりではありませんが、パクったのはポピュラー音楽のほうです。
クラシック音楽からすれば、例えば、長音階(メジャースケール)の「I7」なら、「○maj7」に決まっています。「調(key)が判断できていれば、数字だけでコードの種類がわかるだろ」というわけです。
ポピュラー音楽ではちゃんと「maj7」や「m7」などコードの種類を表記します。そういう意味でクラシック音楽はスケール重視、ポピュラー音楽ではコード重視という意図が感じられます。ただ、下から順番に数字をつけていくことと、それぞれの表記法でメジャー・マイナー、三和音・四和音を表すことはどちらも変わりありません。
しかし、以降、ここではポピュラー音楽の表記法を使います。
<一番重要なのはこの3つ!>
1番目の和音を主和音(トニック,tonic)と言います。
調(キー)の性格を決定する重要な存在です。曲に終始感と落ち着きを与えます。
続いて、5番目の和音を属和音(ドミナント,dominant)と呼びます。
トニックに進もうとする傾向があります。
最後に4番目の和音を下属和音(サブドミナント,subdominant)と呼びます。(「sub」は「下」を意味する接頭辞ですね。「subway」とか「submarine」とか)
ドミナントに行く準備をしたり、トニックに進むことができます。
これら、1番目、4番目、5番目の3和音を「主要三和音(primary chord)」と言います。
それぞれ・・・
・トニック=T
・サブドミナント=SD
・ドミナント=D
と略され、流れは大きく分かれて、D-T, SD-T, T-SD-D-Tの3つです。聴いてみましょう。
<D-T型>
*sequenced
D-T型は一番基本かつコード進行の最小単位です。終始感と安定感がありますね。
「ドミナントはトニックに進みたい」という性格があり、ドミナントとトニックはよくセットで使われます。
ところで、コードとスケール編①で紹介した、ラモーはこう言いました。
「Vには7thをつけれるぞ」
*sequenced
先程の例と比べてみてください。Vに7thをつけると終始感が強くなりました。何が起こったのでしょうか?
Vに7thをつけることによって、3rdと7thとの間に減音程、減5度(Diminished 5th)が作られました。このV7やドミナントが持つ減音程をトライトーン(三全音)と言います。(全音を3つ含むから三全音)
このトライトーン、非常に不安定な音程で、中世では「悪魔の音程」と呼ばれていました。当時使えば破門にされていました。←「もうお前キリスト教徒じゃないからw」ということ
このトライトーンの不安定さが「トニックに行きたい」という印象を強め、終始感をさらに強めるのです。より強い終始感を得られるので、音楽ではV-IよりもV7-Iの方が多く使われます。
<SD-T型>
*sequenced
SD-TもD-Tと同様、終始感を得られますが、D-Tよりも穏やかな印象を受けます。
<T-SD-V-T型>
*sequenced
V-T,SD-Tを組み合わせたものがこの、T-SD-V-Tです。これは音楽をやったことない人でも聞いたことがあるのではないでしょうか?学校の入学式や卒業式で見られる、「お辞儀の和音」です。
以上、基本的なT,SD,Vの流れは上記の3タイプです。これら3つの基本的な和音進行の規則をカデンツ(kadenz:独、candenza:伊、cadence:英)と言います。それではT,SD,Vの特徴をまとめてみましょう。
トニック・・・終始感と安息感を与える
サブドミナント・・・トニックに進んだり、ドミナントに進む準備をする性格
ドミナント・・・トニックに進む傾向
和音にはそれぞれ傾向と性格があり、音楽の世界ではそれを機能(function)と呼びます。それでは他の和音についてはどうなのでしょうか?
<トニック族>
Imaj7に加え、IIIm7とVIm7 もトニックに分類されます。
Imaj7と共通した音を持つことがポイントです。
<サブドミナント族>
IIm7とV7susサブドミナントに含まれます。
4th(スケールの一番下から4番目の音)を持つことがポイントで、この4thはトニックの3rdに進む傾向を持ちます。
<ドミナント族>
ドミナントはV7に加えて、VIIm7(b5)も分類されます。VIIm7(b5)は前述したトライトーンを含むのでドミナントの機能を持つということです。トライトーンを含むことがドミナントの特徴なんですね。
V7susはトライトーンを持ちませんが、トニックに進むことがあるので、一応、ドミナントにも分類されます。進んだ先の和音によって、サブドミナントになったりドミナントになったりします。
機能はトニック、サブドミナント、ドミナントの3つの種類に集約されると言っても、それぞれいくつかの和音を含むで使い方、選び方の可能性は広がります。しかし、この記事で最も言いたいのは、結局音楽というのは(一部の音楽を覗き)、トニック、サブドミナント、ドミナントの3つでしか構成されていない、ということです。
バッハの371のコラールより、「Aus meines Herzens Grunde」を聴いてください。
*SATB=ソプラノ、アルト、テナー、バス
*sequenced ↑神々しいですね・・・
これをT,SD,Dに分類すると、こうなります。
やはり、T、SDとDしか見られません。
それは現代になっても同じです。
2020年2月19日発売された日向坂46の4thシングル「ソンナコトナイヨ」に収録されている「青春の馬」(youtubeの公式アカウントから試聴できます)のイントロです。
バッハの時代から約300年たった現代でもT、SD、Dのたった3つで音楽はできていることは変わらないのです。
ベートーベンはピアノ協奏曲第5番 「皇帝」第1楽章でT,SD,Dを大胆な使い方をしています。
*sequenced
出典元:IMSLP Petrucci Music Library https://imslp.org/wiki/Main_Page
こんなに壮大な楽曲でも結局はT, SD, Dの集まりにすぎないのです。これはレゴブロックの作品に似ています。どんなに大きくて、工夫を凝らしたレゴブロックの作品でも、一つ一つ分解してみれば、数種類の同じブロックの集まりだということがわかります。音楽でもこれと同じようなことが言えるのです。
<まとめ>
和音はトニック、サブドミナント、ドミナントの3つに分けられ、しかも、それぞれの機能を持つということを述べました。ほとんどの楽曲はこれら3つの種類の集まりでしかありません。しかし、問題はこのトニック、サブドミナント、ドミナントをどのように芸術的に使うか、ということです。それは次の次の記事で、筆者自らの曲を使って解説したいと思います。その前に、次回では、もう一つのポイント、「転回系の芸術」について解説したいと思います。
参考文献
「究極の楽典 ー最高の知識を得るためにー」 青島広志 全音楽譜出版社
「ハーモニー探求の歴史 思想としての和声理論」
西田紘子、安川智子、大愛崇晴、関本菜穂子、日比美和子 音楽之友社
「REHARMONIZATION TECHNIQUES」 Randy Felts berklee press