#や♭の数が変わるってどういうこと?<転調のはじめ 〜調と共感覚〜>
転調とは「曲の中である調(key)から違う調に変わる、転ずること」です。
「調が変わるということ」は、めちゃくちゃざっくり言うと、#やbの数が変わることです。では、#やbの数が変わるとどうなるのでしょうか?とりあえず、この曲を聴いてみてましょう。
Smoke Gets in Your Eyes / Jerome Kern
これは1933年アメリカのミュージカル曲であり、ジャズスタンダードである「Smoke Gets in Your Eyes」です。*邦題:「煙が目にしみる」
曲を聴いてみて、途中で「!?」と、なんか雰囲気変わったな、みたいな部分がありました。
この「なんか雰囲気変わったな」現象が転調の効果です。「なんか雰囲気変わったな」現象を使うとなんとなく曲が面白くなるので、作曲する上で「なんか雰囲気変わったな現象」を使うことは当たり前のようになっています。
#やbの数が変わるとどうなるのか。少し実験してみましょう。
キラキラ星を全てのキーに変えてみました。原曲はハ長調、C majorですから#やbはありません。これに#やbの数を1つずつ加えていってみましょう。
まずは原曲↓
キラキラ星 ハ長調(C major) #とbなし
キラキラ星 へ長調(F major) b
キラキラ星 ト長調(G major) #
キラキラ星 変ロ長調(Bb major) bb
キラキラ星 ニ長調(D major) ##
キラキラ星 変ホ長調(Eb major) bbb
キラキラ星 イ長調(A major) ###
キラキラ星 変イ長調(Ab major) bbbb
キラキラ星 ホ長調(E major) ####
キラキラ星 変ニ長調(Db major) bbbbb
キラキラ星 ロ長調(B major) #####
キラキラ星 変ト長調(Gb major) bbbbbb
言葉でそれぞれ表すのは難しいですが、各キーによって独特の雰囲気というか、世界観のようなものを持っているというのは感じられますか?
ちなみに筆者は原曲のハ長調(C major) よりも変ニ長調(Db major) の方が星の「キラキラ感」が感じられます。
ついでにキラキラ星をマイナーにしてみましょう。
キラキラ星 ハ短調(C minor) bbb
暗っ・・・
曲の中での転調の仕方は大きく分けて、「長いやつ」と「まぁ長いやつ」「一瞬のやつ」の3つあります。
・曲頭で数を変えて大胆に転調したり・・・(長いやつ)
・音符に#やbをつけてさらりと転調としたり・・・(まぁ長いやつ)
・それとなく#bをつけたり・・・(一瞬のやつ)
と、まぁこんな感じで3つあります。
ちなみに、すぐ上の「一瞬のやつ」は一般的には「部分転調」と言います。しかし、人によっては転調じゃないとか、転調だって言う人の2つに分かれます。筆者はどちらかというと「転調じゃない」派ですが、議論がめんどくさいので「別にどっちでも良い」と思っているのが本音です。
先程、いろんなキーのキラキラ星で、キー、つまり#やbの数によって印象が違う、ということを学びました。しかし、1番の問題は「その各々のキーの印象をどういうふうに選んで、どう転調させるか?」というところにあります。
長調と短調が12種類ずつあるので、全部で24種類ものキーがあります。ある1つのキーから違う他のキーに転調させるとなれば、23種類の中から選ばないといけません。確かに、その23種類の中からなんでも任意に選んでも良いのですが、「その任意に選んだ根拠は何か?」という疑問が生まれます。
それを解決する1つのヒントは共感覚と筆者は考えます。
<共感覚>
共感覚とは1つのある刺激に対して、別の刺激を感じることです。
例えば、数字に色が見えたり、味覚に形が見えたりする人が世界には存在します。
3
↑3を赤で塗りましたが、3が青く見えたり、黄色に見えたりする人にとってはこの赤い3がキモく見えるわけです。
そういう意味では読者のみなさんにも共感覚のようなものはあると思います。例えば・・・
青 Yellow あか
きもいですよね・・・?言葉の意味と色が一致していません。これも共感覚のひとつだと筆者は思います。
さて、音楽の世界では音やキーに色が見える人がたまにいます。これを色調と言います。「色調共感覚者の一貫性実験によるクロスモーダルマッピング」という論文の中でこんなものを見つけました。
上の2つの図は共感覚者に対して、キーと色の関係性を表したものです。2種類あるのは人によって感じ方が違うかららしいのですが、おおよそこの2種類に分けられるっぽいです。例えば、「C」(ハ長調の意味)には白系と赤系が見られますね。ただ長調(外側の円)より短調(内側の円)の方が暗いことは共通していますね。
個人の差があるにしろ、人によってキーに色が見えているようです。
しかし、音楽経験者であろうとなかろうと、先ほどの「キラキラ星」の例を聞けば、色が「見える」とまではいかないが、こう言われてみれば、なんとなく色が「心に浮かぶ」人が多いのではないでしょうか。
調、キーに色があるとすれば、曲を転調させる際の「調の選択」は色塗りに例えられる、と筆者は思います。作曲者が色塗りするような感覚でキーを選んでいるならば、任意かつランダムに選ばれているような選択に作曲者の感覚的な意図が感じられます。
<Smoke Gets in Your Eyesにおける転調>
さて、はじめに紹介した「Smoke Gets in Your Eyes」に戻りましょう。
「Smoke Gets in Your Eyes」のリードシートです。
*こういうメロディーとコードシンボルしか書かれていない楽譜を「リードシート」と呼びます。
曲の長さのバランスをみれば、「まぁ長いやつ」タイプの転調です。変ホ長調(Eb major)→ロ長調(B major)→変ホ長調(Eb major)の流れになっています。
14小節目(4段目の2小節目)で「なんか雰囲気変わったな」現象が起きています。*1:16〜辺り
「なんか雰囲気変わったな」現象を使うと、曲のカラーが変わってすごく新鮮というか、曲の面白みが増しました。これが転調の極意なのです。
<まとめ>
キラキラ星の例で各キーは独特の印象やカラーを持つ、ということがわかりました。これらのカラーを1曲の中で塗り分けていくか、ということが転調の醍醐味であり、作曲者の腕の鳴りどころなのです。
転調は「長いやつ」「まぁ長いやつ」「一瞬のやつ」に分けられます。これからの解説の進み方としては2通りあります。
<「長いやつ」方向>
・転調にどのようなパターンがある?
・曲の中でどんな転調のしかたをしているの?
・転調の歴史
今回はさっと説明しましたが、「転調」をテーマにするだけで膨大なページを必要とします。それだけ転調と言うのは長い間先人達が関心を持ってきたことでした。
<「一瞬のやつ」方向>
・サブドミナントマイナー←new word!
・モーダルインターチェンジ←new word!
etc・・・
「一瞬のやつ」転調は転調と言えるかビミョーなところなのですが、1テーマにつき1ページでさっと終われる感じなので、「一瞬のやつ」方向で解説を進みたいと思います。その前にキーの判断の仕方についても解説しとこうかなと思います。