セオリア・ハルモニア 〜はじめての人からすごい人のための音楽理論〜

初心者から上級者のための音楽理論ブログです。実践的な例を挙げながら、主観的に音楽理論をまとめたいと思います。

ゆるく、適当な感じでキーを特定してみる

前回の記事https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/04/17/050322で「転調」について簡単に、ゆるく説明しました。せっかくですからキーを特定する方法について軽く取り上げたいと思います。 

 

〜お約束〜

 そもそも初めは各スケールの#とbの個数を覚えないと話にならないので、頑張って覚えましょう。

*ちなみに文字の色は、筆者の各調に対する、大体の色のイメージです。変ニ長調はキラキラ光ってる感じです。

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各スケールの#とbの数一覧表

 *調によって#とbの数が理由が変わる理由はこちら↓

  コードとスケール編③<古典派作曲家からコードを学ぶ 〜#とbの数が変わる理由>https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/02/23/184334

 

<調判定するためのヒント>

・楽譜がある時٩( ᐛ )و

LEVEL 1:#と♭の数

 曲の冒頭で指示されている#・bを調子記号(Key Signature)と言います。#bの数が決まった時点で、あとは長調短調の2択です。 下の例の場合はbが1つあるのでへ長調(F major)かニ短調(D minor)のどちらかです。

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Mozart-piano sonata-no12-KV332 出典:imslp

 

LEVEL 2:コードと機能で判断

 コードもヒントになります。1小節目はF majorですね。21世紀となった現代でも、まぁ大体50〜60%の確率で曲はトニック(I)から始まります。F majorをトニックに持つ、ということでこの曲はへ長調(F major)ですね。

 

LEVEL 3:歴史的な知識

 バッハのバロック時代からモーツァルトなどの古典派の時代はほぼ100%の確率でトニックから始まり、トニックで終わります。ショパンなどのロマン派以降になると、「別にトニックから始まらなくてよくね?」みたいな雰囲気が出てきて、ドミナントなどから始まる例もあります。(ショパンエチュード「革命」はG7から始まる)

 なので、そういった音楽史の知識もヒントになります。

 

・楽譜がない時( ;∀;)

LEVEL 4:全部耳で判断

 自分の持つ音楽理論の知識と耳コピ力を駆使して判断します。むずいです。

 

<実際にキーを見つけてみよう>

 モーツァルトピアノソナタ15番K545を題材に曲のキーを判定する練習をしましょう。

 まずは、曲全体としてのキーを見つけます。

 クラシックの世界ではよく、「〜〜 第○番 〜〜調」というタイトルがありがちです。クラシックでは特に何調かというのがなぜか大事らしいです。「星野源 恋 ニ長調」とは言いませんよね。この「〜〜調」にあたる部分が曲の全体としてのキーです。

 

 ここからひとり言的な感じで解説して行きます。 

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1〜13小節目

 

 「#とbの数が0だからハ長調イ短調・・・モーツァルトの曲だし、最初のコードがC majorだから、まぁハ長調で決まりでしょ」

 先を見ても、#とbが出てこないので、まぁハ長調(C major)で決まりでしょうね。ということで「モーツァルト ピアノソナタ第15番ハ長調」でタイトルは決まりです。

 

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14〜24小節目

 

 「なんか#が1個ついたな〜。他には#ついてないし、G majorからフレーズが始まってるから、ト長調に転調したっぽいな〜。続き見てみるか〜。」

 

 続きを見てみましょう。

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25〜28小節目

  「G majorで終わってるし、このエリアはト長調(G major)だわ」

 

 ハ長調からト長調に転調しましたね。

 

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29〜32小節目

 Gmで始まってるから、ト短調で決まりや」

 

  と、まぁ適当な感じで決まります。

 

 「ミとファ#があるから、旋律(的短音階)の方で」

 

 短調の場合、自然・旋律・和声的短音階の3種類あるので、特定がめちゃくちゃめんどくさいです。

 

 「なんかド#が出てきたな・・・また転調っぽいな・・・」

 「なんか下にイ長調っぽいフレーズがあるけど、この状況でここだけイ長調とかありえるか・・・?」

 「・・・・・無視で。」

 

  濃いピンクで囲まれているド#をご覧ください。ト短調にド#はありません。転調っぽいので、もうちょっと先を見てみましょう。

 

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33〜35小節目

 「Dmがあるからやっぱりニ短調

 

 DmとA7が出てきました。トニック(Dm)とドミナント(A7)の関係になっているので、ニ短調がしっくりきます。

 

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36〜41小節目

 「和音がねぇ・・・」

 「ファとソだけに#がついてるのはイ短調しか」

 

 こういうヒントがメロディーと調号だけというケースが一番難しいです。さらに難しくなると、理論知識と音楽的経験の両方が求められます。

 上図の場合、ファとソだけに#がつく(ファに#がつかなかったり)キーはイ短調しかありません。

 

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42〜49小節目

 「F majorから始まってるし、bが1つだけだし、へ長調に転調だな」 

 

 新しく今度は♭が1つつきました。♭が1つだけの調はへ長調ニ短調ですが、F majorから始まっているので、へ長調で決まりです。

 

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50〜55小節目

 「なんかシにナチュラルがついたな」

 「C, Dm7, G7, Fがあるからハ長調にそれとなく転調したっぽい」

 

 シにナチュラルがついて、結果的に#bは0になりました。コードを調べてみると、Dm7, G7, Cがみられます。きれいなサブドミナントドミナントートニックができていますから、ハ長調と予測されます。続きを見てみましょう。

 

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56小節目〜終わりまで

 ハ長調に戻ってきたな。やっぱモーツァルトは天才だわ。」

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 C majorから始まり、C majorで曲が終わっているのでやはり、ハ長調で間違いないようです。しかし、これのどこが「天才」なんでしょう?

 

<転調の全体図>

 この曲の全体図です。この曲の各キーで色で分けてみました。

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 ハ長調で始まった後(赤)、次にト長調に転調します(オレンジ)。

 

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  そして、ト短調(紫)、ニ短調(ピンク)、イ短調(青)とあちらこちらに行きます。

 続いて、へ長調(緑)に転調した後、最後に初めのハ長調(赤)に戻ってきます。

 

 モーツァルトあたりの時代の曲は、どこへ転調しようが、初めと終わりのキーを一致させるという「縛り」のようなものがあります。この曲の場合、ハ長調で始まったので、ハ長調で終わらないといけません。要は「ハ長調ー色々な調ーハ長調」みたいな感じで「サンドイッチ」にしないといけません。

 

 色々あっちこっちに転調させた挙句、きれいにハ長調で始まり、ハ長調で締める、という所業は中々計算された芸術です。

 まぁこれだけでもやばいのですが、もっとやばいのが、モーツァルトはこれを頭の中で全部スラスラっとやってのけちゃうところです。

 といっても、「ハ長調から始まって〜、ここに転調して、こっちに転調したら、きれいにハ長調で終われるな」という暗算的な感じではなく、勝手に頭に流れてくるものを楽譜にした結果がこれです。

 紙に構想と全体をメモして、作曲するならまだわかるのですが、勝手に閃いちゃうとなると凡人はお手上げです。

 

<まとめ>

 今回は説明不足な感じになってしまいました。「ここに#があるのに、これは無視か!?」みたいな点はあったと思います。キーを判定するのは、そもそも結構難しく、今まで取り扱った内容だけですべてを判断するには不十分です。

 今回の記事では筆者のキーの判定方法をゆるい感じでお伝えしました。記事のテーマが豊富になってから、また「調判定」や「転調」について取り上げたいと思います。