エモさを与えるセカンダリードミナント<セカンダリードミナントのパターンをすべて調べてみた>
以前、コードは3つの種類に分けられる<音楽における"機能"とは> https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/03/14/191452 の中で、音楽はトニック、サブドミナント、ドミナントの3つで作られている、と述べました。
その中で最も初歩的かつ基礎的な進行が「V7→I」という流れです。
逆にこの「V7→I」だけでシンプルな曲を作れることができます。
↑すいません、めっちゃテキトーに弾いてしまいました。DAWの音とは思えません。
これらの和音の中でも、一番シンプルな組み合わせが、5番目の和音から1番目の和音という「V7(G7)→I(C)」なのです。上の2つの例を聴くと、なかなか安定した、きれいなサウンドの流れです。なので、この「5」から「1」という流れは音楽では重要かつ基礎的なものと考えられています。
じゃあ、他の和音にも「5」から「1」の流れを無理矢理作ることができるんじゃね!?
みたいな発想を昔、頭が柔軟な人が(たぶん)考えました。
うむ・・・ちょっとよくわかりませんね・・・
コードとスケール編②<古典派作曲家からコードを学ぶ(ついでにアナライズも)〜ハイドン編〜>https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/02/19/015743 で、スケールのそれぞれの音から団子を作ると和音ができ、それらをダイアトニックコードと呼ぶ、と述べました。
下図のように、「G7→C」という流れを他の和音(ダイアトニックコード)にあてはめることはできないのでしょうか?
まず、手本となるG7とCが完全5度の関係になっていますから、それを当てはめなければいけません。そうするとこうなります。
できました!!
各コードを「1」と仮定して「5→1」の流れを作ることによって、「V7→I」のクローンみたいなものを量産することができました。この「『V7→I』のクローンみたいなもの」の「○7」のところをセカンダリードミナントと言います。
*ちなみに「V7→I」、例えば、上図のG7はクローン元なのでセカンダリードミナントとは言いません。
<作り方・表記法>
作り方は簡単です。
①進みたいコードは?
ここではG majorにしましょうか。
②そのコードのルートの完全五度上は?
G majorのルートはGですから、その完全五度上はDですね。
③それに「7」を付けてください。
ぺちょ。D7。
終わりです。
例えば、ハ長調の場合、G majorは下5番目の和音です。なのでD7はV7/Vとローマ数字で表します。「V7/5」はダメです。要するにこんな形になります。
これは変わらない
↓
V7 / ○ ←に進みたいコードのローマ数字を入れる。
<Attention!!>
長調、メジャースケールにおいて、V7/VIIはありません。
恥ずかしながら、これは筆者も知らなかったのですが、←まぁ確かに見たことない
なんでかな〜と思って調べてみましたがとネットにそれらしいものは載っていませんでした。しかし、「Tornal Harmony with an Introduction to twentieth-century music」という著書の中で、
「Because tonic triads are major or minor, it makes sense that only major and minor triads can be tonicized by secondary dominats.」
(トニックの三和音は長和音(メジャー)か短和音(マイナー)であるから、長3和音と短3和音だけがセカンダリードミナントによってトニック化できるのは明確である。)
訳:筆者
7th Edition Tornal Harmony with an Introduction to twentieth-century music
Stefan Kostka, Dorothy Payne, Byron Almen
page.245
と書いてありました。
まぁ書いてあることは少々意味不明なのですが、要するに、セカンダリードミナントが進むことができるコードはメジャーとマイナーだけ、ということです。
なので、ディミニッシュコードには進むことができないらしいので、メジャースケールの中で、V7/VIIは無い、ということになっています。
もう一度先程の図をご覧ください。
上の図は#とbが0個のハ長調(Cメジャースケール)のセカンダリードミナントです。
セカンダリードミナントを作ると、ご覧の通り、そのスケールにはない#やbが出てくるのがわかります。そのキーにはない#やbが出てくるので、セカンダリードミナントを使うと「なんかエモい感じ」を作ることができます。
ではその「なんかエモい感じ」とはどんな感じなのでしょうか?V7/IIから順番に、実際に曲を聴いてみましょう。
*大人の事情でメロディーなしで、コード進行だけ流れます。
<V7/II>
TBSドラマ「世界の中心で愛を叫ぶ」の主題歌、「かたちあるもの」です。
曲がそもそもエモいので、よくわかりませんね・・・
なんか曲が一瞬明るくなりますね・・・
これもエモい・・・
1回目はDm7ですが、2回目はV7/IIのD7を使って上手く対比を作っています。見事な使い方です。
<V7/III>
V7/IIIはJ-popに見つけることはできませんでした・・・探したらあるかもしれません。
以下は古いジャズスタンダードナンバー、「All God's Chillun Got Rhythm」です。
ジャズではV7/IIIは多い気がしますね。
*調子記号はありませんが、b1つのへ長調です。
<V7/IV>
日向坂46のニューシングル、「ソンナコトナイヨ」です。穏やかな感じがしますね。
卒業式の定番ソング、「旅立ちの日に」です。
一瞬ですが、IVに進みたい感じが出てきます。
穏やかで優しい印象がします。
ところで、ここでのV7/IVは完全5度下に進んでいませんが、そういう「ツンデレ的な」使い方もありです。また、違う機会で説明しましょう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
Tips:subV7とは?
コードは3つの種類に分けられる<音楽における"機能"とは>https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/03/14/191452でセブンスコードの3rdと7thをトライトーン(三全音)と言いました。同じトライトーンを持つセブンスコードを代わりに使うことができます。その代わりのコードを代理和音(Substition Chord)と言います。(subはSubstitionの略です。)
上の「目抜き通り」の最後から2小節目の例で言うと、Gb7と同じトライトーン(ミとシb)はC7です。Gb7はC7の代理和音です。この代理和音については、また機会に深く取り上げましょう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
筆者はV7/IVの中で、この「涙そうそう」が一番良い例だと思います。
めちゃくちゃ美しいですね。涙がポロポロこぼれそうになります。
<V7/V>
明るくて、元気になれるサウンドです。←ってか作詞って谷川駿太郎さんだったんですね。
大山ドラ派のために。
わさドラ派のために。
どうやら、V7/Vは幼児向けアニメでよく使われるようです。
さて、セカンダリードミナントは現代特有の発想ではありません。300年も前から使われています。
通称、「ワルトシュタイン」と呼ばれる、ベートベンのピアノソナタです。
ベートーベンはセカンダリードミナントと転回系を組み合わせて、ベース音をずっと「ド」にしています。ベートーベンはやはり頭一つ、飛び抜けています。
あまりにも有名な、「ゼルダの伝説」のメインテーマです。
なんか、勇気がわいてきますね。
「Ah〜〜〜」と感情的な歌詞にセカンダリードミナントを持ってきていますね。
2段目ではV7/II、V7/Vを連続で使っています。こういう使い方もあるんですね。
<V7/VI>
映画「ドラえもん のび太とワンニャン時空伝」の主題歌、「YUME日和」です。懐かしいですね。
これはエモい。
すごい切ない感じがします。
やはり、aikoさんは感情的で、主張的な部分にセカンダリードミナントを当てているようです。歌詞とセカンダリードミナントは関係あることが考えられます。
よっぽど「早く会って言いたい」んでしょうね。
こちら心がキュッとなるような感じがしますね。
この切ないサウンドと歌詞の内容がものすごくマッチしています。
乃木坂46のニューシングル、「しあわせ」の保護色です。
V7/VIの切ないサウンドのおかげでネガティブな歌詞に説得力を与えています。
一方、下段のポジティブな歌詞ではV7/Vの明るいサウンドを使っています。
J-Popを調べてみると、V7/VIの出現率が一番多いような気がしました。V7/VIが持つ切ないサウンドは日本人の心に合うのかもしれません。
<おまけ・V7/VII>
VIIに対するセカンダリードミナントはこの曲しか見つかりませんでした。代理和音ですが、貴重な曲例なので一応載せておきます。
*マイナースケールでのVIIはメジャーコードです。
<まとめ>
セカンダリードミナントを一瞬、忍ばせることで独特の「エモさ」を作ることができることは、なんとなく感じられたと思います。注意したいのは、やはり使いすぎると、セカンダリードミナントが持つ「エモさ」が消えてしまうことです。一瞬だけ使うことがセカンダリードミナントのコツなようです。
また、筆者が調べていて興味深いと感じた点は、セカンダリードミナントと歌詞の関係性です。いくつかの曲の中で、感情的、または作曲者が特に主張したい部分にセカンダリードミナントを置いている傾向が見られます。aikoさんは作詞と作曲を両方をしているので、それが顕著だと思います。まだ筆者も2曲しか調べていないので、推測の域ですが、セカンダリードミナントと歌詞の2面から調べて見ると、コード進行と歌詞の関係について新たな発見があるかもしれません。