セオリア・ハルモニア 〜はじめての人からすごい人のための音楽理論〜

初心者から上級者のための音楽理論ブログです。実践的な例を挙げながら、主観的に音楽理論をまとめたいと思います。

他のキーからコードをパクる借用和音②-1<モーダルインターチェンジ>

 前回の他のキーからコードをパクる借用和音①<サブドミナントマイナー>で

taka-musictheory.hatenablog.jp

  違うキーが持つコードをパクってくるとなんかいい感じになる、というお話をしました。この他のキーからパクられたコード、和音を「借用和音」と言いました。

 

 「サブドミナントマイナー」はメジャーの曲において、同主調の4番目の和音のパクってきた”借用”和音です。

 

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 同主調とはスケールの1番目が同じ音で始まるメジャースケール(長音階)・マイナースケール(短音階)の関係を言います。例えば、1番目が「ド」で始まるスケールは#bが何もない、Cメジャースケールとbが3つのCマイナースケールです。

 まぁ、要するに「#bの数は違うけれど、名前がほぼ一緒のやつ」です。

 

 4番目のコードをパクれるということは、他のコードもパクれる可能性が出てきます。そこで今回、解説するのはbII、bIII、bVI、bVIIです。

 

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 このbIII、bVI、bVIIはサブドミナントマイナー同様、同主調出身のコードです。残りのbIIは同主調出身ではなく、*「ちょっとよくわからないスケール」からやってきたコードです。

 しかし、「ちょっとよくわからないスケール」出身という、一見、意味不明なコードですが、起源は古く、それは18世紀ヨーロッパまでさかのぼります。

 

<用語解説>

*ちょっとよくわからないスケール・・・フリジアンスケール(Phrigian Scale)

 

ナポリの和音(Neapolitan Chord)>

 18世紀当時の、現在のイタリアの南半分にナポリ王国という国がありました。

*☆・・・現在でも存在する都市、ナポリ

*境界線はテキトーです。

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出典:Google Earth

 

 このナポリ王国にイタリアオペラや当時の西洋音楽に影響を与えた*ヤバイ作曲家集団がいました。このヤバイ作曲家集団はナポリ学派(Neapolitan School)と呼ばれました。

 

<用語解説>

ヤバイ作曲家集団・・・代表的なのはスカルラッティなど

 

 このナポリ学派の特徴として、マイナーの曲において、主和音(トニック)の半音上の長和音(メジャートライアド)からトニックに帰る、というテクニックを使っていました。

 このマイナーの曲におけるbIIの和音はそのナポリ学派がよく使っていたということで、ナポリの和音(Neapolitan Chord)と現在でも呼ばれます。

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ナポリの和音(Neapolitan Chord)

 

 このbIIはマイナースケール上にはありません。どこからこの発想を得たのかはわかりませんが、こういう意味不明なテクニックを普通に使うナポリ学派は結構な勢いでイイね!とリツイートを獲得し、後のクラシックの作曲家にも影響を与えました。

 

 ナポリの和音であるbIIとbIII、bVI、bVII、これらを合わせて現代のポピュラー音楽ではモーダルインターチェンジ(Modal Interchange)と呼ばれます。

 

<bII>

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Haydn-Piano sonata No36.1

  ナポリの和音は上記の例のように、マイナーの曲の中で使うのが一般的だったようです。

 ちょっとよくわからないので違う例を聞いてみましょう。

 

<bIII>

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Night and Day / Cole Porter

 1932年のミュージカル曲、ジャズスタンダードにもなっている、コール・ポーターの「Night and Day」。赤四角にご注目。

 bIIIがドンっと置かれています。結構「何か変わった感」がします。

 

 

<bVI, bVII> 

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Harry's Wondrous World / John Williams

   *原曲より簡略化しています

 

    映画ハリー・ポッターシリーズから「ハリーと不思議な世界」です。

 違う世界に行ってしまったような、かなりインパクトの強いサウンドがします。

 

 

 

 

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ウィーアー! / 作曲:田中公平 作詞:藤林聖子

 ワンピースの初期オープニングとして有名な「ウィーアー!」です。

 曲の終結部に使われていますが、実はこれが定石と言いますか、モーダルインターチェンジのよくある使い方です。

 モーダルインターチェンジからのトニックで一旦終わらせると、インパクトがあるかつ、納まりの良い終わり方ができるので、使い勝手が良いです。特に、このbVI→bVII→Iという流れは覚えていて損はありません。

 

 

 

 

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キラキラ / 作詞曲:aiko

 ところが、aikoさんはこのモーダルインターチェンジを曲のしょっぱなからいきなり使っています。最初にモーダルインターチェンジを使うと「変わった感」もくそもないのですが、ほんの一瞬だけ使って、あとは元のキーに戻っているので、曲のキーが曖昧になることはないし、 さらに「スパイス感」を出すことができます。 

 

 

 <まとめ>

 このようにモーダルインターチェンジは素人でも注意するとわかるような、結構インパクトが強いサウンドがするので、古今東西、様々な作曲家が好んで使います。そのインパクトのサウンドゆえ、特に映画音楽やゲーム音楽でよく使われます。

 しかし、結構昔から人気のあるテクニックなので、今の作曲家がモーダルインターチェンジを”あるある手法”で使ってしまうと、「はいはいモーダルインターチェンジねwww」みたいなことを言う理論*厨もたぶんいます。(筆者の主観です)

 

*厨・・・ネット上で自慢したり、自分の知識をひけらかしたりするユーザーを馬鹿にした呼び方。

 

 っていうぐらい、皆がよく使うモーダルインターチェンジなのですが、中には面白い使い方をしている曲も多々あります。次回もあと少しモーダルインターチェンジを解説していきます。