セオリア・ハルモニア 〜はじめての人からすごい人のための音楽理論〜

初心者から上級者のための音楽理論ブログです。実践的な例を挙げながら、主観的に音楽理論をまとめたいと思います。

他のキーからコードをパクる借用和音①<サブドミナントマイナー>

 以前、#や♭の数が変わるってどういうこと?<転調のはじめ 〜調と共感覚〜>で「新しい#やbを使うとなんかいい感じになる」ということを学びました。めちゃくちゃざっくり言って、その「なんかいい感じになる」現象が"転調"です。

taka-musictheory.hatenablog.jp

 

  その記事の中で、キラキラ星のハ長調(C major)バージョンとハ短調(C minor) バージョンで比較してみました。

 

キラキラ星 ハ長調(C major) #とbなし

キラキラ星 ハ短調(C minor)  b3つ

 

 まぁ、全然違いますよね。

 

ところで、このハ長調ハ短調、調号は違えど、主音が同じです。

 

f:id:taka-musictheory:20200623175202p:plain

 

 このハ長調ハ短調のように、主音同じ、長調-短調の関係を同主調(Parallel Key)と言います。ちなみに、それぞれのダイアトニックコードが以下です。

f:id:taka-musictheory:20200623200106p:plain

 
    今回、この中で注目したいのはIV-Iというサブドミナントからトニックへの進行です。

 「コードは3つの種類に分けられる<音楽における"機能"とは>」で勉強した通り、サブドミナントとはスケールの下から4番目の和音で、「IV-I」はよくあるカデンツの1つでした。

taka-musictheory.hatenablog.jp

 

 早速聴いてみましょう。

    IV-I

 柔らかい響きですね。 

 

 じゃあ、IVの代わりに、同主調にあるIVmを使ったらどうなるのでしょうか?

 

 短調由来の暗い和音と長調由来の明るい和音が混在していて、なんかいい感じになっています。これは是非とも作曲に応用したいですね。

f:id:taka-musictheory:20200623200353p:plain

上:C majorのダイアトニックコード 下:C minorのダイアトニックコード

 このように一時的に他のキーからコードをパクる感じを借用和音(Borrowed Chord)と言い、特に同主調からの借用和音を準固有和音と言います。

 ポピュラー音楽の世界では、同主調からパクってきたIVmを、サブドミナントのマイナー版ということで、サブドミナントマイナーと言います。

 

  まとめるとこんな感じです。

 

他のキーからパクってきた和音・・・借用和音←広い意味

 同主調からパクってきた和音・・・準固有和音←狭い意味

  同主調からパクってきたIVm・・・サブドミナントマイナー

 

  前置きが少し長くなりましたが、今回はサブドミナントマイナーを扱っていきます。

 

 サブドミナントマイナーはIVmだけではなく、他にもいくつかあります。

f:id:taka-musictheory:20200623203258p:plain

ハ長調(C major)のサブドミナントマイナー

 どれにせよ、同主調からパクってきたコードです。(多分)よく見かけるのはIVmです。

 よく見ると、その調の6番目をフラットした音(b6、ここではラb)がすべてのコードに見受けられます。これがサブドミナントマイナーの特徴です。b6が見られたら、まずはサブドミナントマイナーを疑った方がいいです。

 

 正直、これら以外にもサブドミナントマイナーはあるのですが、ジャンルによって捉え方が違うし、説明もややこしくなってくるので、「代理コード」や「リハーモナイズ」を扱う時に詳しく説明しようかなと思っています。

 

 では、まず、サブドミナントマイナーの一般的な使い方をしている曲が、まずはこちらです。

*大人の事情でメロディーをそれとなくわかる感じで

*音源はすべて打ち込みです

f:id:taka-musictheory:20200623192411p:plain

上を向いて歩こう」作曲:中村八大 作詞:永六輔

 

 この曲は#1つでト長調ですから、同主調ト短調です。それぞれのダイアトニックコードを見てましょう。

f:id:taka-musictheory:20200623200629p:plain

 上段は普通に曲のキーであるト長調のIV、Cを使っています。

 が、対比として、同主調であるト短調のIVm、Cmを使っていますね。

 

 IVmはIに進行していますが、サブドミナントマイナーからトニック(IVm-I)というパターンが普遍的なサブドミナントマイナーの使い方です。

 

 ・・・まぁ、普通にいい曲ですね。

 

f:id:taka-musictheory:20200623194255p:plain

となりのトトロ」作曲:久石譲 作詞:宮崎駿

 

 

 この曲はb1個なのでへ長調です。IVのBbの代わりにサブドミナントマイナーBbmを使っています。

f:id:taka-musictheory:20200623200847p:plain

 

「お母さんと会えて良かったね」感がすごい出ていますね。

 

 

 次はクラシックです。

f:id:taka-musictheory:20200623202824p:plain

Mazuruka op.17 No.3 / Chopin

 

*フラット4つ(シミラレにb)の変イ長調の曲です。

 

  この曲ではIVmではなく、VIIdim7を連続で使っていますね。筆者的には連続で使いすぎてあまりありがたみが感じませんが・・・

 

f:id:taka-musictheory:20200623205938p:plain

BWV 245-3 / Herzliebster Jesu, was hast du verbrochen / Johann Sebastian Bach

  

 バッハもIVmを使っていますが、転回形を使って半音上に下行するベースラインも同時に作り出しています。300年前にこの発想とは、やはり頭一つずば抜けています。ベースラインにも注意して聴いてみてください。一番低い男性の声で「あ〜」って歌ってるやつがそれです。

 

最後の例です。

f:id:taka-musictheory:20200623210713p:plain

「夏色」作曲:北川悠仁 作詞:北川悠仁

 サブドミナントのIVから直接、トニックのIへ行かずに、サブドミナントマイナー のIVmを挟み込みました。 夏が終わるような、そんな切なさがありますね。

 

 <まとめ>

 「違うキーからコードをパクってくる」、それが借用和音の発想の仕方でした。中でも、サブドミナントマイナーサブドミナントの代わりに同主調サブドミナントをパクってるという手法でした。この同主調の関係はキラキラ星の例でも見たように、サウンド、雰囲気の違いが大きいので、サブドミナントマイナーの効果は絶大です。

  ところで、「違うキーからコードをパクってくる」発想があるということは、サブドミナントマイナー以外にも借用和音の種類がある、ということになります。

 ということで次回は「モーダルインターチェンジ」について取り上げようと思います。