コードとスケール編②<古典派作曲家からコードを学ぶ(ついでに曲アナライズも)〜ハイドン編〜>
今回、取り上げるのはジョセフ・ハイドンのピアノソナタ ハ長調 第1番です。
さっそく、聴いてみましょう。
*sequenced
可愛い曲ですね。実際に曲を見て行く前に、少しコードとスケールについて言及したいと思います。
<目次>
・コードとスケールの関係
・コードシンボルを読もう
お約束
・転回系
<コードとスケールの関係>
コード(Chord)とは単に和音を意味し、音を低い方から高い方へ階段のように並べたものを音階、スケール(Scale)と言います。ドレミファソラシドの音階(ハ長調)を使って説明しましょう。
ドレミファソラシドの音階がなぜハ長調(C major Scale)と呼ぶのかを説明するとここでは論旨から外れてしまいます。ここではあくまでスケールとコードの関係について考えていきたいと思います。
上段はドレミファソラシを低い方順に並べた図です。こうして見ると音の階段(音階)のようになっているのがわかると思います。このようにまとまった、組織的なものをスケールと呼びます。「モンキー・D・ルフィ、ロロノア・ゾロ、サンジ、ウソップ、ナミ、チョッパー、ニコ・ロビン、フランキー、ブルック」をまとめて「麦わら海賊団」と呼ぶのと同じです。←例え下手ですかね?
一方、異なる高さの2つ以上の音を同時に鳴らしたものをコード(和音)と言います。
下図は音程編で7度について説明した図ですが、このように異なる高さの音であれば、2音でも「和音」と呼びます。
コードは基本的にお団子さんを作ればきれいな響きがします。
スケールの一つ一つの音を一番下にして3度ずつ、積み木のように積み重ねていくと団子のような形が出来上がります。このように一つのスケールから生まれた和音のことをダイアトニックコード(Diatonic Chord)と呼びます。もう一度最初の図を見てみましょう。
要するに、スケールとコードは親子のような関係です。子供は親のDNAを受け継いで生まれ、逆に子供のDNAを調べるとその親を判明できます。
それと同じように、スケールが決まれば(つまり何の調か)使われるコードが決まるし、コードが決まればそこからスケールを割り出すことができます。
おそらく、初めて理論を勉強する読者にとっては「?」となるかもしれません。
しかし、筆者が声に大にして言いたいのはコード(和音)とスケール(音階)は親密な関係にあるということです。これが筆者がコードとスケールを一緒に説明する理由です。←別々に説明するの面倒くさいし・・・
<コードシンボルを読もう>
私達の身の回りにはたくさんの「記号」でありふれています。地図記号から交通標識、数学で使われる記号など(「=」や「∮」)、あらゆるものを「記号化」することで生活を便利にしてきました。
例えば、「🚻」とあればトイレがあるんだな、とわかりますし、道端で「➡️」という標識があれば、ここは一方通行なんだな、ということがわかります。記号化することで私達の生活を便利にすることができます。音楽でもこれは同じで、和音を記号化したコード・ネーム(またはコードシンボル)というものがジャズやポップスで使われます。
まずはスケールから生まれたコードを取り扱ってみましょう。
<お約束>
①お団子さん(和音、コード)の各音には番号がつけられています。「だんご3兄弟」では「一番上が長男、一番下が三男、間にはさまれ次男」でしたが、音楽理論の場合、一番下から根音(Root)、3rd、5th、7th(maj 7th)です。一番下の音は和音の根元となる大事な音なので根音(Root)と呼びます。なぜ、下から1、2、3、4と付けないかと言うと、これはコードがスケールに由来しているからです。(下図)
*ちなみに、根音と7thの関係が長7度の関係だとメジャー7th(major 7th)、短7度の関係だとマイナー7th(minor 7th)と言って、明確に呼び分けますが、クラシックでは単に「7th」とまとめられることがあります。
②それからコードシンボルはアメリカで生まれたので英語を使います。「ドレミファソラシ」はイタリア語で、英語は「CDEFGAB」と呼びます。
③コードシンボルの規則はいたってシンプルです。まず、一番下の音名(根音、ルート)を書いて、右横にコードの種類をそえるだけです。今からその「和音の種類」について説明していきます。
<長3和音(Major Triad)>
呼び方:〜メジャー
ルートから長3度、短3度で構成された和音を長3和音(Major Triad)と言い、基本的かつシンプルな形です。
単純に「C」や「F」と、音名を書くだけで長3和音(Major Triad)を表します。
<短3和音(Minor Triad)>
呼び方:〜マイナー
ルートから短3度、長3度で構成された和音を短3和音(Minor Triad)と言います。メジャートライアドと区別するために「minor」の「m」を付けます。
<減3和音(Diminish Triad)>
呼び方:〜ディミニッシュ
全てが短3度で構成された和音を減3和音(Diminish Triad)と言います。ルート(上図ではシ)と5thの音(ファ)が減音程なので減和音です。「Diminish」からとって「dim」と付けます。
Cメジャースケール(ドレミファソラシド)からできる和音の中で、ディミニッシュは1つだけです。なんか、浮いた存在ですね。
次は団子4つで構成された和音を見ていきましょう!
<長7の和音(Major 7th)>
呼び方:〜メジャーセブンス
先程の長3和音(メジャートライアド)長7度の音を追加した和音です。「maj7」と付けます。
<短7の和音(Minor 7th)>
呼び方:〜マイナーセブンス
短3和音(マイナートライアド)短7度の音を追加した和音です。「m7」と付けます。
<属7の和音(Dominant 7th)>
呼び方:〜ドミナントセブンス、「〜セブンス」が最も一般的
メジャートライアドに短7度の音が付加された和音。「属」、「ドミナント(Dominant)」と、新しい言葉が出てきました。これについては違う機会に取り上げる予定です。
<Minor 7th b5>
呼び方:〜マイナーセブンスフラットファイブ
減3和音に短7度の音がついた形です。日本語名称は(恐らく)ありません。(単に「長調のⅦの和音」と呼んだりする。)
前の短7の和音(minor 7th)の5thがフラットしている(半音下がっている)ので「m7」に「b5」を付けて表します。
以上です。
まだ少し種類は残っていますが、ドレミファソラシドから生まれる和音は「メジャー」「マイナー」「ディミニッシュ」「メジャーセブンス」「マイナーセブンス」「ドミナントセブンス」、そして「マイナーセブンスb5」だけです。しかし、ハイドン先生の時代にはまだ「メジャーセブンス」はあまり頻繁に使われていませんでした。
<転回系(Inversion)>
コードを構成音を並び替えることを「転回(Inversion)する」と言います。
上図を見ると、黒いが上にひっくり返って、上下の音の順番が入れ替わっていることがわかると思います。これが「転回」です。
さらに一番下(つまりベース)にどの音がくるかで形の名称が変わります。
①根音、ルートが一番下・・・基本形(Root Position)
②3rdが一番下・・・第1転回(1st Inversion)
③5thが一番下・・・第2転回(2nd Inversion)
④7thが一番下・・・第3転回(3rd Inversion)
コードシンボルでの表記では分数で表します。一番下の音を分母として添えるだけです。上図の第1転回を例にすると・・・
コードはCmaj7です。一番下(ベース)は「ミ(E)」ですからCmaj7/Eと表記します。
上図ではそれぞれの形に3つ例を挙げましたが、どのように音を積むのかは関係ありません。一番下に何の音がくるかが重要です。
実はこの「転回」の概念、非常に重要です・・・しかし、それはまた別の機会に紹介します・・・
Tips;どれが正しい!?色々なコード・スペリング
コードシンボルには作曲者、または編曲者が演奏して欲しい和音を正確に伝える役割があります。にも関わらず、コードシンボルの表記法は出版社、また作曲者の考え方や好み(?)によって違います。
メジャーセブンス系・・・Cmaj7 / C△7 / CM7 / Cma7
マイナーセブンス系・・・Cmin7 / C-7 / Cm7 / Cmi7
マイナーセブンスフラットb5・・・Cm7(b5), C-7(b5) / Cφ...etc
筆者はアレンジの授業で「見にくいから『△』や『m』と『M』は使わない方が良い」と習いました。ものすごい近眼の人は「△」などの略記号は小さくて見えない可能性があるからです。「m」と「M」も、もしかしたらごっちゃになってしまう可能性も否定できません。それ以来、筆者はなるべく略記号を使っていません。
「どれか正しいのか?」は問題ではなく、「演奏者にとって伝わりやすい」と思う表記法を考えなければいけないのですね。
では、ハイドン先生によるピアノソナタ1番にコードを付けていきましょう。
*上段・・・右手で弾く段
中段・・・左手で弾く段
下段・・・そのコードの基本形
和音を考える時は、まず縦に見てみます。1~2小節目は上段に「ソ」、中段に「ドとミ」がありますから、これを基本形に並び替えると「ドミソ」となります。
3小節目にG7とあります。G7は「ソシレファ」ですが、左手の段には「シ」が欠けています。しかし、メロディーにはちゃんと「シ」があり、コードに欠けている音を補完しています。
このようにメロディーとコードを補い合うようにして、和音を組み立てると綺麗なサウンドがします。
メロディーもコードの役割として果たす、ということですね。
6小節目のG7/Fでは「シ」がどこにも見当たりません。コードの音、どれか一つが欠けることがあります。筆者がG7/Fとしたのは理論的に考えて判断したものにすぎません。
左手の段、コードがバラバラにされてしまいました。このようにコードが分割されたもの、または演奏されるものをアルペジオ(Arpeggio)と言います。前半はメロディーとコード(伴奏)が仲良く一緒のリズムを刻んでいました。しかし、8小節目からは伴奏は分散和音で演奏されることによって、曲に進行感、「どんどん前へ進む感じ」が与えられました。
このように同じ場面が続く時は、何かしらのヴァリエーションを与えて、音楽に面白みを与えます。←コピペ。ダメ。ゼッタイ。
ここで穏やかになりました。注目したいのは16小節目の「シb」。最下段の基本形を見ると、「シb」は根音の「ド」から数えて、短7度ですね。Cメジャーの「ドミソ」に短7度の音が乗っかっていますから、これは「C7」です。
ところで、この「シb」は「ドレミファソラシド」のスケールにはありません。スケールに無い音を使うことによって、サウンドに「色の変化」を与えます。
そして、また曲が動き出します。
今度は「ファ#」を使ってサウンドの色を変えます。
ところで、すぐ上の25〜35小節目、同じリズムが何回も出てくるのに気づきましたか?(赤丸で示したところ)
このリズムは冒頭のメロディーから引用しています。
音は違いますが、リズムという点では同じです。同じでリズムでできた「型」のようなものが何回も出てきています。16〜19小節目にも同じ「リズムの型」が出てきています。
このように同じ型を何回も使うことで曲に統一感を与えます。論理的ですね。
そして締めはユニゾンです。
ここまでずっとメロディー(右手)+伴奏(左手)だったのに、最後は一緒にせーのでユニゾンと共に仲良く締めます。いかついですね。ほっと一息、ひと段落終わった感じがします。これも(伴奏の)和音とユニゾンの対比です。
<おわりに>
理想は一つ一つなぜそのコードになるのか、説明すべきだったのですが、膨大な量になるため一部に留めました。しかし、音程さえきちんと理解していれば、冒頭で言及したコードの説明は理解できると思います。
しかし、できるだけ分かりやすいように簡潔に説明を試みましたが、かといって、このページだけで全てを理解できるようになるとは思っていません。上のように分析できるようになるにはもう少し、より多くの知識が必要です。
全てを理解できなくとも、このハイドンのピアノソナタから読み取れるのは「シンプルなコードからでも曲は創れる」ということです。全体的にCやGやDのメジャートライアド、G7やD7のドミナントセブンスがほとんどです。つまり、コードの種類にしてみれば、ほぼメジャートライアドとドミナントセブンスで構成されているということです。これは曲作りの真理を突いているのですが、これに関しては「機能」という言葉を説明する機会で言及したいと思います。
また、ハイドンの曲を通して「Cメジャー」というのはこういうサウンドがするんだ、ということを感じとっていただけたら、それでもう十分ではないか、と思います。
さて、次回は単調、マイナーの曲を取り上げたいと思います。新しい種類のコードも少し取り上げ、スケールのこともより深く言及していきたいと思います。
次回「古典派作曲家からコードを学ぶ 〜ベートヴェン編〜」!デュエルスタンバイ!