セオリア・ハルモニア 〜はじめての人からすごい人のための音楽理論〜

初心者から上級者のための音楽理論ブログです。実践的な例を挙げながら、主観的に音楽理論をまとめたいと思います。

コードとスケール編①<音楽理論が音楽理論になるまで 〜ラモーが残した功績〜>

 古代のギリシャ哲学者達は万物の根源は何か、ということについて必死で考えました。

 テレスは「水」、デモクリトスは「原子」(←すごい・・・当たってる・・・)、そしてピタゴラスは宇宙の秩序は「数」によって解明できると考えました。

 ボエティウス(480?-524?)の「音楽教程」によると、ピタゴラスが鍛冶屋の前を通った時にハンマーの叩く音が協和していることに気づきました。そこでハンマーの重さの比を調べてみると、1:2なら8度、3:2なら5度、4:3なら4度の和音になる、ということを発生した、と伝えられています。←ほんまか?

 

 真偽はともかく、ピタゴラスは・・・

音ってやっぱ「数」じゃん!!

 と、言いました。

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出典:Wikipedia 音を研究するピタゴラス

 

 さらに「音楽教程」の中でボエティウスは音楽を3つに分類しました。

 ①ムジカ・ムンダーナ=宇宙、四季の秩序←最上位

 ②ムジカ・フマーナ=人間の心身

 ③ムジカ・インストゥルメンタリス=楽器による音楽←最下位だと・・・?

 このボエティウスの「音楽教程」は中世ヨーロッパに強く影響しました。

 つまり、中世ヨーロッパの人々にとって音楽とは宇宙の秩序、数であり、音楽は天文学幾何学と同列のものでした。

 

 しかし、18世紀に入ると、ある大きな転換点が起こります。

 

 それがフランスの数学者であり、物理学者でもあったジョセフ・ソヴール(1653~1716)が発表した、自然倍音に関する論文でした。

 

<倍音(Harmonic, Overtone)とは?>

 倍音とはもとの音(基音、fundamental tone)の整数倍の振動数を持つ音のことです。わかりやすくノコギリ波という音で真ん中のドより2オクターブ低いドを鳴らして見ました。

 

 こんな音。

 

 これの周波数を見てみると・・・

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 一番左の、太い針のようなものが基音です。その右一列に並んでいるものが倍音です。これを楽譜で表すと・・・・

 

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 私達が先ほど聞いた音にはド以外にもこんなに音がたくさん(楽譜に書ききれてないだけでもっとある)含んでいるんですね。これが倍音です!

 

 いや・・・聞こえん・・・

 

 はい。通常は聞こえません。ただ、私達の身の回りの音には倍音が複雑に含まれており、その倍音の含まれ方で音色が決定されます。

 

 ジョセフ・ソヴールがここまで発見したのかどうかはわかりませんが、音楽を数ではなく物理学の観点から言及したのは大きな歴史の転換点でした。

 かがくのちからってすげー!

 そして、この自然倍音に注目した、ある作曲家が登場します。それが

 

 ジャン=フィリップ・ラモー(1683~1764) です。

 

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出典:Wikipedia 偉い人なので画像あげときます

 このラモーはこの自然倍音に関する理論に注目して、音楽理論、ハーモニーを説明しようと試みました。ラモーの理論を(筆者が頑張って)わかりやすく説明するとこうです。

 

①「ドミソ」の和音は自然倍音から由来。

②「ドミソ」は並び替えても、「ミソド」だろうが「ソドミ」だろうが「ドミソ」と

  性質は変わらない←転回形の概念

③ 和音がどういう風に並び替えられたとしても、「ドミソ」の基本形の形に直し

  てから考えよう。そして、基本形の一番下の音を根音とする。←根音バス

 

  和音を並び替えることを音楽の世界では「転回(Inversion)」と言います。

  下図はCメジャー(ドミソの和音)の転回したものです。

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Cメジャー(ドミソ)の転回形

 詳しい説明は次回にするとして、ラモーはこの「ドミソ」がどんな風に転回されていても「ドミソ」は「ドミソ」である、と言いました。そして、転回される前の基本の形、これを基本形(Root Position)と言います。あらゆる和音を基本形に直して、一番下の音を根音(Root)とすると曲の分析がしやすくなります。これを根音バスと言います。

 

 下図はハイドンソナタ1番の冒頭です。これにコードシンボルをつけ、下段にその基本形を記しました。

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Haydn:Sonata Hob.XVI:35

 ラモーとコードシンボルを一緒に言及するのはこじつけですが、筆者が言いたいのは、上図のように曲のハーモニーを分析できるのはこのラモーの「転回形」と「根音バス」による概念のおかげだと言える、ということです。

 一見複雑そうな楽譜でもコードをつけてみるとCやGなどしか出てきていません。当時の状況を想像してみると、音楽理論を簡略化したという意味でラモーの功績は大きく、今ありふれている(ありふれ過ぎている)音楽理論の源流をたどるとラモーにたどり着くのはかなり興味深いことだと思います。

 

おわりに

 しかし、このラモーの理論にも弱点がありました。それはマイナーの和音、「ドミ♭ソ」がこの自然倍音から説明することは困難だったのです。しかし、このラモーの自然倍音でハーモニーを分析するという手法は音楽界、科学界に大きく影響を与えました。ラモー以後もこの自然倍音の理論を受け継がれていくことになります。

 さて、ラモーの理論は置いといて次回から本格的にコードとスケールを古典派作曲家ハイドン、ベートーベン、モーツァルトソナタを使って説明していきたいと思います。

 

参考書籍

「ハーモニー探求の歴史 思想としての和声理論」

西田紘子、安川智子、大愛崇晴、岡本菜穂子、日比美和子 著

「和声の歴史」

オリヴィエ・アラン 著 永富正之、二宮正之 訳 

西洋音楽史 『クラシック』の黄昏」

 岡田暁生 著

「大学4年間の哲学が10時間でざっと学べる」

 貫成人 著