コードとスケール編⑤<古典派作曲家からコードを学ぶ 〜モーツァルト ピアノソナタKV280の冒頭を分析>
3人目の古典派作曲家、モーツァルトの楽曲の中で取り上げるのは、「ピアノソナタKV280 第一楽章」です。
*KV・・・ケッヘル番号。モーツァルトが作った数が多すぎて整理番号が作られまし
た。
*sequenced
まずは1〜2小節目。
いきなりFメジャーの和音をドンッと置きます。しかも、ダイナミクス記号はフォルテです。なかなか、いかついです。左手の段はアルペジオですね。
最初にドンッ!と来たかと思ったら、すぐに穏やかで和やかな雰囲気になります。
ここで注目したいのは、左手段の和音です。なにやら、「F」がたくさん見られます。
C7/Fとありますが、C7が含む音は「ド・ミ・ソ・シb」なので、そこにファ(F)はありません。Edimにも同様にファはありません。どういうことでしょうか?
左手段だけ見てみましょう。
一番下の音を赤色に塗ってみました。上の和音、コードが変わる一方で、一番下ではずっとファが続いていることがわかります。
この、上部でコードが変わっている一方で、同じ音で演奏されているベース音のことを保続音(pedal point)と言います。この保続音についてはまた今度、詳しく取り上げましょう。
7〜15小節目です。穏やか雰囲気はたった4小節で終わってしまいます。
7小節目に速いフレーズとf記号(フォルテ)が入り、曲のペースが格段に速くなります。かと思ったら、9小節目にさっきより少ない音数とp記号(ピアノ)。この緩急の交代が2回続きます。
7〜8小節目→急
9小節目→緩
10〜11小節目→急
12小節目→緩
この6小節目の間にこれだけの緩急の差があります。モーツァルト、なかなかアグレッシブです。
この緩急が続いた後はしばらく、3連符のフレーズが続きます。
上図の右手段のように、和音が分割されたものをアルペジオと言いましたね。
25小節目まで3連符のアルペジオフレーズが続きます。ところどころ、「dim7」を召喚して、一瞬、サウンドのカラーを変えます。
3連符のアルペジオフレーズは終わり、27小節目から新しい場面が始まります。
28小節目から右手のフレーズが始まり、1小節目遅れて左手のフレーズが入って来ます(緑の四角)。ユニゾンではなく、6度の関係になっているのがミソです。
次の場面へ行く前に28〜30小節と32〜34小節目のペアを見てください。
28〜30小節と32〜34小節目のペアを上下に並べてみました。
こうして見ると、28〜30小節のフレーズ(上段)と32〜34小節目のフレーズ(下段)は2度の関係になっていることがわかります。少しの違いはありますが、フレーズをパクって、何度か上下させた「ほぼパクリフレーズです。
この「ほぼパクリフレーズ」をゼクエンツと言います。
35小節目から新しいフレーズが出てきました。
同じリズムのフレーズが5回続きます(水色四角)。
同じリズムが続くだけでは面白くないので、ここではダイナミクスとアーティキュレーションを変えます。
*ダイナミクス=音がでかいとか小さいとか
*アーティキュレーション=フレーズの歌い方
Tips:
音楽では絶対に全く同じものが2回出てくることはありません。何かしら(音とかコードとかリズムとか)を変えます。
↑コピペダメ。ゼッタイ。
42小節目で一旦3連符フレーズにオチをつけ、43小節目から16分音符のフレーズが始まりまります。
*41小節目のコード、確定できませんでした。たぶん、F。それかDmかも。
48小節目から前図の43小節目と同じフレーズを1オクターブ下げて始まりました。まったく、同じはダメですから、モーツァルト先生は1オクターブ下げて変化を与えたようです。←コピペダメ。ゼッタイ。
51小節目からは左手段のフレーズを使いまくります。もうすぐ一段落つきそうです。
ところで47小節目のコードを見てください。「Gsus」とは何でしょうか?
<サスペンション(Suspension) >
susコードとはメジャートライアドの3rdを半音上げて、根音(Root)、完全4度、完全5度の構成でされたコードです。このコードの種類は例外的にお団子さんではありません。しかし、これはどこから出てきたのでしょうか?実際に今回の曲で説明しましょう。
Fメジャーの5th(ド)はGメジャーの3rd(シ)に行きたがります。
しかし、本来「シ」に進むはずの「ド」がそのまま残って、結果的に「ソ・ド・レ」の和音になりました。この「ド」は後から遅れて「シ」に進みます。
この、そのまま残って、後から遅れてきた音のことをサスペンション(Suspension)と言います。これが本来、クラシック音楽で使われるサスペンションの意味です。
このサスペンションによって生じたコードを特にポピュラー音楽ではサスペンションコードと言います。サスペンションコードについてはまた今度言及しましょう。楽曲に戻ります。
最後はモーツァルトらしい、軽快なフレーズで終わります。
<まとめ>
こうして分析してみると幾何学的な構造している印象を受け、前々回、紹介したハイドンから少なからず影響受けているような気がします。しかし、モーツァルトの方がかなり大胆で、ハイドンの作品より10歩も20歩も先に進んでいます。また、多彩な変化のヴァリエーションから彼の作曲家としての創造性の豊かさがうかがえます。
次回から音楽理論をもっと深いところまで掘り下げいきます。「転回系の美しさ」「各和音の機能」「ドレミファソラシドだけで曲を作る」をテーマにする予定です。