ドレミファソラシドだけで曲を書いてみる(曲作り編)
今回は今まで学んだ知識を使い、ハ長調(Cメジャー)の音だけ、つまり、ドレミファソラシドだけで曲を作ろうと思います。
ということで、こんな曲を用意しました。
*作曲:筆者
オーケストラバージョンだと解説しにくいので、これをメロディーだけのコンパクトな楽譜にまとめましょう。
39小節の短い曲です。
赤丸で囲まれているA~Dは「リハーサルマーク」と呼ばれ、新しい場面が始まったところにつけられます。文章を意味段落でまとめるようなものです。(物語の「起承転結」や論文の「はじめにー方法ー本文ー結果ー考察」に近い)これによって全体的な構造を分析しやすくします。また、「Aの◯小節目から始めて」とか「Bの◯小節は・・・」などと、合同練習の時に便利な代物です。どこの小節かすぐに特定できます。楽譜を作る時は絶対につけましょう。
ドレミファソラシド(つまり、白い鍵盤)という”縛り”があるので、先にメロディーを作りました。これにコードをつけていきましょうか。その前にこれまでの復習を。
①ハ長調(Cメジャースケール)で使えるコード
コードとスケールは相対関係にある、と述べました。スケールの各音で”お団子さん”を作ると、コードができます。そのスケールから作られたコードをダイアトニックコードと言います。上図がドレミファソラシドから生まれたダイアトニックコードです。もちろん、これを全部使わなくても大丈夫です。また、コードにはローマ数字を使って番号がつけられます。
②ハ長調(Cメジャースケール)で使えるコードの機能
各和音の性格や傾向を「機能」と言いました。機能はトニック、サブドミナント、ドミナントの3種類しかありません。ハ長調(Cメジャースケール)のダイアトニックコードを機能ごとに分けると上図のようになります。
③転回系を使おう
コードの構成音を並び替えることを「転回」と言います。転回によって得られるメリットは
・コードの質量感を変える
・ベースラインをより滑らかに、美しくする
でした。これについては、曲を使って解説したいと思います。それでは、曲のメロディーにコードをつけていきましょう。
<A1~4>
初めの1小節目はほぼトニックのIから始まります。サブドミナントやドミナントから始まる場合もありますが、時代によりけりです。現代の音楽でもトニックのIから始まる曲は多いです。理由は色々あるでしょうが、もはや将棋やチェスで言う、定石のようなものです。←1手目は角か飛車の前を開ける、みたいな。
さて、次からどうやってコードをつけていきましょうか?
基本的にはメロディーの音を含むをコードを持ってくればいいだけです。上図の赤丸と赤矢印を見れば、メロディーの音を含むコードを使っていることがわかると思います。
しかし、例えば、Aの2小節目の「レ」を含むコードはGの他に、DmやBdimなどがあります。わざわざGを選んだのは、筆者が「Gが一番いいな」と思っただけです。ここにはあまりこだわりはありません。別にDmやBdimでも問題ありません。要するに好みの問題です。
最後に、転回系を使って、ベースラインに流れを与えましょう。(緑丸と緑矢印)
この作業を曲の終わりまで永遠と繰り返します。←事務的な作業では決してないです。
<A1~8>
Aの1〜4小節目とAの5〜8小節目は似てますね。しかし、全部が同じではいけません。各4小節のフレーズの最後を少し変えました。
青四角を見ていただきたいのですが、メロディーを”線”として捉えた時に、後のフレーズの頂点、てっぺん(青丸)を前のフレーズより高くしました。メロディーの頂点を高くすることによって、よりダイナミックな印象が出ます。
そして、最後のコードも変えました。赤四角のコード進行は全く同じですが、最後だけG7をEmに変えました。メロディーの音は「ソ」なのでGやCが考えられますが、あえてEmにしました。違いを聴いてみましょう。
①Cmajの場合
ん・・・まぁ普通
②Gmajの場合
なんか”気が強い”印象
③Emの場合
Emの方は切なく感じるので、筆者はこれを選びました。
<A9~16>
Aの9小節を書いている途中で、この型(青四角)を何回も使っていることに気づきました(A1とA5に出てくる)。この型を続けて何回も使うことにしてみました。こういう型を”モチーフ”と言いましたね。
<A15~16>
ここで一旦、締めたいのでカデンツを使って終始感を出します。サブドミナント(SD) ードミナント(D)を使います。また、Aの初めに戻ります。
<A9~20>
緑四角で示す、「棒線にチョンチョン」マークは「これと同じマークに戻れ」と言う意味になります。Aの1小節目に「棒線にチョンチョン」マークがあるので、そこに戻ります。*リピート記号って言います。
1回目の演奏に「1.」とガイドされている段に進み、2回目の演奏に「2.」と書いてある段に進みます。
要は、2回同じものが演奏されますから、何か変えないといけません。←コピペダメ。ゼッタイ。
そこで赤四角内の部分を変えました。
1回目と2回目、使っている音もコードこそ同じですが、メロディの方向、ラインの形が違います。1回目はまず下へ進みますが・・・
2回目は上へ向かって伸びています。
メロディーが上に上がることで高揚感が出ますね。メロディーラインの形はメロディーの印象を作る上で非常に大事です。
<A21~24>
ここでリハーサルマークAは終わらせたいので、SD-D-Tの"お決まりカデンツ"で一旦締めます。1次会終わった後の一本締めみたいなものでしょうか?
<B1~8>
場面変わって、リハーサルマークBに行きます。場面が変わりますから、Aと対照的で、新しいフレーズを作りたいです。
何を対照的にするか?と考えた時に、メロディーの音の数を減らそう、と思いました。Aでのメロディーの音数も多くはないですが、もっともっと減らして、メロディーにスペースを与えました。さらに、Bでは一つのフレーズがAより長くなりました。このBの最初の8小節は”問いかけ”と”返事”のような、二つのフレーズで構成されています。ここでは前者をQustion Phrase、後者をAnswer Phraseとしましょう。
AではQuestion PhraseとAnswer Phraseが2つずつあるのに対して、Bの方は1つずつしかありません。しかし、Bの方がAより広々として、伸びやかな印象を作ることに成功しました。 この広々とした印象とスペースが後々生きてきます。
<B1~16>
青四角の部分を変えました。後半の青四角では完全8度(オクターブ)上の音を付け加えて、どこかへ飛び立つような印象を与えます。
<C1~8>
転回系を使って2度進行のベースラインを作ることに飽きてきたので、Cの最初の4小節で少し違うタイプのコード進行を使いました。I→IIIm→IV→Iの流れです。ここでも、メロディーの音を含むコードを使っています。(赤丸と赤矢印)
<C1~D8>
リハーサルマークD。曲は終盤に差し掛かります。盛り上がって終わりたいです。
CとDでは似たようなメロディーを使っています。変更点は青四角と緑四角の中にあります。
Cと赤四角から青四角にかけてメロディーは下へ向かいます。しかし、一方、Dでは、メロディーは上へ向かいます。メロディーは上へ向かう方が気分が上がりますね。
そして、緑四角。Cの緑よりDの緑のメロディーの方が盛り上がっている感じがします。これはおそらくフレーズのゴールの高さが違うからだと思います。
どちらもスタートは「ソ」ですが、Cのゴールは「ファ」、Dのゴールは「ラ」と、Dのゴールの方が高いですね。このフレーズのゴールの高さが印象を決定していると筆者は考えています。
<D9~D12>
最後は大盛り上がりで終わります。メロディーが上がったり、下ったりしながら、上へ上と上がります。転回系を使って、上行系のベースラインも作りました。皆で上へ上がって、大盛り上がりです。
最後にトニックのIで終わって、”めでたしめでたし”です。トニックのIは終始感や安定感が強いので、”めでたしめでたし”感がします。
この曲がトニックのIで始まったことを思い出してください。Iで始まって、Iで終わるのでは曲作りの”あるある”です。Iはいわば、そのキー(調)のホームです。ホームで始まり、ホームで終わるとかなり強い安心感が得られます。
<終わりに>
全体的にメロディーをフォーカスした解説になってしまいました。メロディーにコードをつける、またはコードからメロディーを作るには知識と慣れが必要ですが、結局は作曲者の”好み”です。初めに復習した通り、ドレミファソラシドだけで使えるコードは3和音と4和音に7種類ずつしかありません。そこから任意にコードを選んで、T、SD、Dの機能の法則に従えば、聞いたことないような素晴らしいコード進行を作る方がはるかに難しいです。むしろ、あまり意味がないです。使える音、コードだけでいかにいい曲を作れるか、の方がよっぽど重要です。観客は普通、曲のコード進行なんか分析しません。
かといってコード自体のことを学ぶことも、もちろん重要です。音楽の歴史に和音が誕生してから、多くの作曲家、理論研究家がどのように和音を美しく使うか研究してきました。しかしながら、何を、どのように和音を使うかは結局は作曲者の”任意”であり、好みに任されます。
次回はこの曲をどう料理していくか、に焦点を当てます。理論についてはあまり言及せず、オーケストレーションの目線から解説していきます。