音程<Interval>③ 〜名作曲家達はどのように音程を駆使したのか〜
今回は実際の曲を参考にし、音程がどのように使われているか。それを私が主観的に分析していきたいと思います。
*貼り付けされている音源は全てDAWで制作しました。
*音量注意
*音源がない曲は大人の都合でありません・・・すいません・・・
完全1度(Perfect 1) / パーカッション的・ユニゾン
すべて同じ音ではメロディーとして成立しません。なので、リズムに変化を与えます。アントニオ・カルロス・ジョビンのOne Note Sambaではメロディーの音がずっと同じ(完全1度)で、コードとリズムが変化しています。
モーリス・ラベルによるボレロの冒頭では、クラリネットがメロディーを吹き、フルートがパーカッション的な役割をしています。
(Fl=フルート、Cl=クラリネット、Vla=ヴィオラ、Vc=チェロ)
金田一少年の事件簿(アニメの方)の次回予告で流れるBGMです。
楽譜下段に注目いただきたい。ここではピアノとストリングスがパーカッション的な役割を果たしており、焦燥感を作り出しています。低域で演奏されている点にも注目です。
(Strings.=ストリングスセクション)
このように完全1度だけではそもそもメロディーと言える要素はないので、リズムやハーモニーの変化を曲の面白みとします。
完全1度はユニゾンとして扱われます。メロディーをユニゾンとして扱う場合はどのように楽器を組み合わせるかが鍵となります。
サミー・ネスティコによるBasie Straight Aheadの冒頭では、アルトサックスとテナーサックスによるユニゾンが演奏されています。さらに、作曲者本人による著書、「The Complete Arranger」ではこんな言葉が述べられています。
『同音や、オクターブでのユニゾンは、力強さと細かい抑揚を出すために、よく使われる効果的な手法です。(中略)時々使われる3度のハーモニーが、単調になるのを防いでいます。』page 25.翻訳:三上 クニ 「The Complete Arranger」第2版1刷
ただ、ユニゾンが続くだけでは面白くありません。そこにユニゾン以外のハーモニーを少し入れるだけで、そのハーモニーとユニゾンがより映えるようになります。
音大時代にアレンジの教授がおっしゃていた言葉が印象に残っています。
"Unison is not cheating."
2度系
半音(短2度) / 不安・恐怖・奇妙な
「エリーゼのために」の冒頭のフレーズが半音(m2)です。少しな不安げな感じがします。
*sequenced
フジテレビ社の名物番組、「世にも奇妙な物語」のテーマ曲では半音が見事に恐怖感を作り出しています。
半音は使い方が他にも色々あり、かなり奥深い音程です。ここで説明すると長くなるので、機会があればまた取り扱いたいと思います。
(Synth.=シンセサイザー)
全音(長2度) / 歌いやすい・親しみやすい
全音はメロディーを作る上でありふれた音程かつ、歌いやすい音程です。
童謡の「チューリップ」のメロディーでは多くの全音で構成されており、子供にも歌いやすい曲となっています。
マイルス・デイビスのジャズスタンダード、「Four」でも多くが全音で構成されています。しかし、上段と下段、3小節目の1拍前を半音にすることによって、コントラストを与え、サウンドカラーを変化させています。
3度系 / 調和した・安心感のある
m3=短3度、M3=長3度
3度は濁りがなく、もっともよく使われる和音の音程です。上図はドビュッシーによる、「月の光」の冒頭です。
*sequenced
すべて和音が3度で構成されており、基本的な和音ですが、非常に優美で幻想的なサウンドがします。
1小節目、フルート2本が3度の和音を演奏しています。
(Fl=フルート、Cl=クラリネット、Ob=オーボエ、Fg=ファゴット、Hr=ホルン)
*sequenced
この曲の冒頭では、和音がすべて木管楽器とホルンで構成されており、柔らかく、神秘的なサウンドを作るのに成功しています。次に続く、ストリングスによる、スピード感のあるフレーズへの導入として、対照的なコントラストを作る役割も果たしています。とても17歳で作ったとは思えません。
この曲の1小節目はたった2音をフルート2本で演奏させる、という選択を彼はしました。最初の「月の光」でもそうですが、こんなシンプルな和音でも、楽器の選び方・使い方によっては十分効果的なサウンドを作ることができるということを覚えていただきたい。
完全4度系(Perfect 4) / 浮遊感・垢抜けた
ホルストの組曲、「惑星」の「木星」ではホルンが完全4度で構成されたメロディーを演奏しています。
(Vn=ヴァイオリン、Vla=ヴィオラ、Hr=ホルン)
*sequenced
アルバム「On Green Dolphin Street」から、ジャズスタンダード、On Green Dolphin Streetの中でビル・エヴァンスはすべて完全4度で構成されたコードをイントロとして使っており、浮遊感のあるサウンドを作り出しています。
和音の明るい、暗いなどの印象は3度の音が何であるか決まります。完全4度で構成されたメロディー、また和音はその3度の音がないので明るいとも暗いとも言えない、独特な印象を与えます。また、コード編で詳しく取り扱いと思います。
増4度(Augmented 4) / 減5度(Diminished 5)/ 注意・不安
(Vn=ヴァイオリン、Vc=チェロ、Cb=コントラバス)
*sequenced
上図は三大バレエ組曲の一つ、チャイコフスキーによる「眠れる森の美女」の序曲です。
増4度、または減5度は3つの全音で構成されていることから三全音またはトライトーン(Tritone)と呼ばれています。
この音程は非常に不安定で協和音に解決することが多いのですが、あえてチャイコフスキーは単体で使うことによって、ユニークで、注意を引き出すようなサウンドを作り出しています。
完全5度(Perfect 5) / パワフルな・強い
続いてチャイコフスキーによる、「くるみ割り人形」から「アラビアの踊り」の引用です。
(Vla=ヴィオラ、Vc=チェロ、Cl=クラリネット、E.Hr=イングリッシュ・ホルン)
*sequenced
ヴィオラとチェロで完全5度を作り出していますが、とてもパワフルな印象を受けます。
それから、ハリウッド映画の主題歌の出だしには完全5度がよく見受けられます。
(Hr=ホルン、Tp=トランペット)
6度系 / 穏やかな・和ませる
このあたりから「高い音程だな」という印象を私は受けます。
メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲では6度音程が連続して登場します。
*sequenced
*sequenced
ジャズスタンダードにもなっている、ヘンリー・マンシーニの映画音楽、「酒とバラの日々」の出だしは長6度で、映画の内容のわりには穏やかな印象を受けます。
映画ちゃんと見たことないんですけど・・・<<見たことないんかーい
続いて、ラフマニノフのピアノ協奏曲2番第1楽章からの引用です。上から2段目と最下段の1小節目に注目していただきたい。
*sequenced
上から2段目の1小節目(5小節目)では、2度ずつ音程が上がっているのに対し、最下段の1小節目(最後から数えて4小節目)では6度上がっています。
前半の2度音程に対して、この6度の跳躍は非常に情緒的な印象受けます。もっと言えば、この2度音程が前半あるからこそ、後半の6度跳躍がより情緒的にさせていると言えます。「6度が高いな」と上述したのはこの例があるからです。
最初、2度や3度などの狭い音程を使い、後に6度、7度や8度などの広い音程を使うとこの広いが音程が生き生きとしてきます。要するに「コントラスト」が重要なのです。
7度系
ジャズスタンダード、I'll Close My Eyesの冒頭は短7度を含むメロディーで始まります。
一方同じく、ジャズスタンダード、Cole PorterのI Love Youではいきなり長7度音程で始まります。
長7度、前々回の記事、https://blog.hatena.ne.jp/taka-musictheory/taka-musictheory.hatenablog.jp/edit?entry=26006613496384976 「音程<Interval>① ~音程とは?音程の違いを耳で聴いてみよう~」では。長7度は非常に濁ったサウンドがすると述べました。
それをあえてメロディーとして使うと、非常に不安定ですが、どこかはかない印象を受けます。
その不安定さを最後の小節、Fmaj7で和らげています。これも音程によるサウンドの印象を上手く使った例です。
完全8度(Perfect 8) / オクターブユニゾン
堂々とした・重量感のある
オクターブユニゾンとして使われる完全8度は完全1度のユニゾンと違い、低音のサポートによって、かなり力強く、重量感のあるサウンドがします。
サン=サーンスによる「動物の謝肉祭」から「ライオンのマーチ」では弦楽器がオクターブユニゾンでメロディーを奏でています。
*sequenced
ライオンらしい、勇敢な印象を受けます。
次は、モーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」第1楽章の展開部から引用です。
*sequenced
モーツァルトはこのオクターブユニゾンをイントロや場面が切り替わる時によく使います。そうすることで、場面が変わったことが観客に明瞭に伝わり、迫力あるダイナミクスが生まれます。さらに、次に出てくる軽くて、穏やかなフレーズとのコントラストがよく映えます。上図の最初の4小節に登場する、オクターブユニゾンが次の、軽くて、愛らしいフレーズをより魅力にしていることに注目してもう一度聴いてみましょう。
まとめ
数少ない例ながらも、音程の幅によって曲、メロディーの印象が変わるということがよくわかります。また、それぞれ音程の持つ印象を把握し、作曲者達が個性的な使い方を使っている点も興味深いことです。この先人達が残した名曲を学び、私達が音程の効果的な使用方法を熟知すれば、より創造的な作曲がスムーズに進むのではないかと考えられます。
音程はシンプルで、基本的な概念ですが、音程という視点で名曲を分析すると新鮮な発見がある、ということを感じていただければ幸いです。また、それぞれ音程ごとに私が感じる印象を記しておきましたが、最終的には自身の印象を大切にしていただければと思います。
さて、次回は、音大に出てくるような音程の問題(恐縮ながら私が考えます)を参考にして、私の解き方を紹介しながら、音程の数え方の復習をしたいと思います。