セオリア・ハルモニア 〜はじめての人からすごい人のための音楽理論〜

初心者から上級者のための音楽理論ブログです。実践的な例を挙げながら、主観的に音楽理論をまとめたいと思います。

音楽理論を独学で①<元・本屋バイト、読書好きが教える音楽本の選び方>

たまに音楽系サークルや部活でこんな質問を受けることがありました。

 

 「理論勉強したいんですけど、どうやって勉強したらいいですか?」

 

 残念ながらそういう人に限って、実際に勉強する人はいません。←個人の主観

なぜなら、本気で勉強したい人は質問する前に勉強してるからです。一応は答えますが、あれからどうなったんでしょうね・・・

 

 しかし、かといって、どこからつければいいか、途方に暮れている人も実際にいらっしゃるでしょう。音楽理論といっても、種類は多いし、量も膨大です。

 

 とりあえず、Googleで「音楽理論」で検索! or   大きい本屋さんに行く!

 

 今はネットでなんでも勉強できる時代ですから、とりあえず、ネットでお気に入りの音楽理論サイトまたは動画を見つけましょう。思い立ったが吉日。まずは行動に移すのです。

 ネットでの独学は0円です。お金がかからないことがメリットですが、逆にお金がかからないとあまり勉強する習慣がつかないことがデメリットだと思います。しかも、情報量が多すぎて、質の良い音楽理論サイトを見つけるのに苦労します。

 

 どちらかと言うと。筆者がオススメするのは書籍での勉強です。

 

 お金をかけることで「せっかくお金払ったんだから、ちゃんと勉強しようかな」という気持ちを起こします。筆者もなるべく、本で勉強します。

 書籍を選ぶ時は大きい本屋さんがオススメです。楽器店よりも大手本屋の方が在庫の量が格段に多いです。

  

 中でも、MARUZEN & ジュンク堂書店がオススメです。ジュンク堂書店は学術系専門分野を得意としているので、音楽コーナーにたくさんの本や楽譜があります。もちろん、蔦屋書店や紀伊国屋書店など、お近くの大きい本屋さんでもオーケーです。

 

 私事ですが、本屋さんのバイト経験がありますので、その経験も踏まえながら本の選び方を紹介したいと思います。

 

<どうやって選べばいいの?>

①何回も改訂されている本

 本の後ろの方に(出版社とか印刷会社とか著者)が書かれているページがあります。そこに「◯◯◯◯年 第◯版」と書かれています。

 何回も改訂されているということは、かなり発行された年代が古い書籍か、人気があって加筆・修正された可能性が高いです。改訂の回数は書籍を選ぶ上での一つの基準となります。

 

②前に出されて、面が表になっている本をチェック

 当たり前のことですが、書棚の前面に出されている書籍は、新刊か「書店販売員がオススメしたい本」です。そのような書籍もチェックしてみましょう。

 

③身の丈にあった書籍を選ぶ

 大きい書店になると、初心者向けから音大生の教科書まで様々なレベルの書籍が売られています。中身をじっくり読んで、自分が理解できるもの・自分が知りたいことが載っているものを選びましょう。いきなり、めちゃくちゃ分厚くて、高価な本を選ぶのはやめましょう。

 

Tips:きれい好きな人向け

 筆者は本に関しては潔癖症です。なるべく、本はきれいに保ちたいです。カバーはつける派です。

 そんな人は、欲しい本が積まれている状態であれば、是非、真ん中から取ってください。一番前の本はもちろん、他のお客さんがベタベタ触るため、汚いです。

 一番後ろの本もあまりオススメしません。本は湿気を含むと、ページがペロンとめくれてくるため、書店員がページがめくれた本を一番後ろに並び替える可能性が無くはないです。(大きい本屋さんの定員さんはそこまで気を使う暇ないでしょうが・・・)とにかく、きれいな本を購入したいなら、真ん中から取る方が無難だと思います。

 

<まとめ>

 さぁ、お気に入りの参考書が見つかれば、家に帰っていよいよ勉強開始です。新しい本を買うとわくわくしますよね。次回は音楽理論の勉強方法について紹介したいと思います。

 

 

 

 

 

 

 

音楽理論に役立つYoutube動画を紹介

 音楽理論を勉強するには書籍ではなく、非常に参考になるYoutube動画もあります。

 youtubeの世界には大量の音楽理論動画が溢れかえっていますが、筆者がオススメするyoutube動画、チャンネルを紹介します。

 

「音楽の正体」

難易度:☆☆★★★


音楽の正体 #17 キース・リチャーズ魔性の左手(偶成和音とは何か)

 「音楽の正体」は1993年から1994年にかけて、フジテレビ系列で深夜帯に放送された音楽理論番組です。

 広く、浅く、解説されており、「少し音楽理論を勉強してみようかな」という方にぴったりです。筆者もこの動画を見て音楽理論の知識をつけていってから、少し難しい本に移行する、という形をとりました。

 

 1990年代前半の番組とあって、選曲は古いですが、日本内外のポップスから、ビートルズ、ジャズ、クラシックまで幅広いジャンルを取り上げられている点がポイント。自分の普段聴かないジャンルの曲も知る良い機会にもなります。

 この番組特有の意味わからん例え方も面白いです。

 

「スコラ 坂本龍一 音楽の学校」

難易度:☆★★★★ 


④グルーブのないリズムの追求

 2010年に第1シーズンから第4シーズンに分けて放送された、Eテレの音楽教養系番組。

 坂本龍一教授とえら〜い学者先生のテーマに沿った会談とわかりやすい解説が魅力。音楽理論というよりは、その音楽の歴史の知識や教養を深める、といった内容です。

 坂本教授の番組とあって、かなりアカデミックですが、初心者でもわかりやすく学べる解説もついています。テーマもクラシックから映画音楽、アフリカの音楽までかなり幅広いです。

 毎回、ゲストに音楽文化や西洋音史の教授など、そのテーマに沿った、めちゃくちゃ賢い先生を呼ぶのですが、その教養の深さには舌を巻きます。やはり、大学教授レベルにはかないません。

 

「8-bit Music Theory」

難易度:☆☆☆☆★


Top 5 Traits of Battle Themes from Pokemon Gold, Silver, and Crystal

 

 皆大好きゲーム音楽を使って、音楽理論を解説するyoutubeチャンネル。

 

 これはまじでおもろい。

 

 それこそ英語のナレーションで、難易度は音楽理論の知識がある人向けですが、それを凌駕する程の内容です。英語がわからくても、小さい頃から親しんできたゲームの音楽を楽譜付きで見られるのはすごい楽しい。↑筆者も文字を大きくして、赤く塗るほど推したくなる

 アメリカの音楽大学の友人にも「これ面白いよ〜」と、紹介してみましたが、割り方、向こうの方には有名なチャンネルなようです。

  

 内容から察するに、この動画のナレーターは恐らく、専門機関でちゃんと勉強した方だと思います。内容もしっかりしていて、筆者の方も勉強になります。

 

 ぶっちゃけ、専門機関の下手な理論の授業よりも面白いし、ためになる・・・

 ↑うっ・・・言ってしまった・・・

 

 オススメのテーマは上に貼ってある、「Top 5 Traints of Battle Themes from Pokemon Gold, SiIver, and Crystal」(「ポケモン金銀クリスタル「戦闘曲」の特徴トップ5」)です。感動します。

 

 任天堂系列のゲームを中心に取り上げられていますが、ファイナルファンタジーなど、幅広いゲームを解説されています。お気に入りのゲームを見つけて、ご覧になられてはいかがでしょうか。

 

<まとめ> 

 「本で勉強しても難しくてわからない」という方は、まず動画である程度知識をつけてから本で勉強する方法も全然ありだと思います。筆者もその方法で勉強しましたから。

 ですが、こういった大衆向けの動画系メディアは「これってどうなん!?」とか「その説明は微妙・・・」みたいな解説も含めますから、最終的には自分の納得のいく、中身の良い動画、書籍を見つけて欲しいものです。

 

 

読書好きが紹介するオススメ理論書・良い理論書の探し方

 筆者は読書が好きです。

  

 ピースの又吉さんや、オードリーの若林さんや、オアシズの光浦さん程の読書家ではありませんが、小学生の頃から芥川龍之介などの古典をたくさん読んできました。

 

 もちろん、音楽に関する本も、本屋に何度も足を運んで、たくさんチェックしました。

 

 というわけで、特に筆者がオススメする音楽理論本を紹介します!

 

「究極の楽典」 青島広志 著 

難易度:☆☆★★★

究極の楽典 -最高の知識を得るために

究極の楽典 -最高の知識を得るために

  • 作者:青島 広志
  • 発売日: 2009/12/14
  • メディア: 単行本
 

  「世界一受けたい授業」など、テレビで何度か目にした、青島広志先生の著書です。

 楽典というのは超・基礎の基礎の基礎の音楽理論です。

 書店の音楽コーナーに行くと、様々な楽典に関する本が売っていますが、「お堅い」本を多数見受けられます。

 しかし、青島先生の著書はアカデミックな方ですが、割と平易な文章で解説しておられます。

 音楽を基礎からしっかりと、勉強したい人向けです。

 

「JAZZ LIFE」有限会社 ジャズライフ

難易度:☆☆★★★

JAZZ LIFE 2020年 04 月号 [雑誌]

JAZZ LIFE 2020年 04 月号 [雑誌]

  • 発売日: 2020/03/14
  • メディア: 雑誌
 

  主に、ジャズミュージシャンのインタービュー記事で構成されていますが、ミュージシャンによる理論解説記事もあります。

 ジャズの音楽雑誌とあって、内容はジャズ理論が中心ですが、読んでみて損はないはず。アカデミックな感じではないので、わかりやすいです。執筆者独特の考えも書いているので、非常に参考になるところがあります。気になるテーマがあれば、買ってみればいかが?

 

 

「ザ・ジャズ・セオリー 」 マーク・レヴィン 著

難易度:☆☆☆★★

マークレヴィン ザ・ジャズ・セオリー

マークレヴィン ザ・ジャズ・セオリー

  • 作者:Mark Levine
  • 発売日: 2005/01/14
  • メディア: 楽譜
 

 ジャズミュージシャンなら知らない人はいない、鉄板の理論書。

 とにかく詳しい! 

 しかも、そんなにめちゃくちゃ難解ではない。

 ただ、音楽理論をある程度理解していないときついかも。あと、値段が高い。

 

「サミー・ネスティコ コンプリートアレンジャー」

サミー・ネスティコ 著

難易度:☆☆☆☆★

コンプリートアレンジャー CD付

コンプリートアレンジャー CD付

 

 ジャズビッグバンドのアレンジが興味がある人向け。

 これはまじで良い!←筆者の主観です。

正直、あんまり教えたくない程の良書。

 ・参考音源と楽譜付きですごいわかりやすい

 ・著者の作品を、著者自身が解説しているので役に立つ情報がたくさん。

 ・m◯xiのグループで「ビッグバンドアレンジの教科書」と評価されていたのを見

  たことがある

 

 ただ・・・日本語版が廃盤・・・ということ・・・

 英語版ならamazonなどで売っているので、英語が苦手でも、ジャズアレンジャーは是非手に入れておきたいところ。

 

「The Study of Orchestration」Samuel Adler 著 

The Study of Orchestration

The Study of Orchestration

  • 作者:Adler, Samuel
  • 発売日: 2016/06/02
  • メディア: ペーパーバック
 

 難易度:☆☆☆☆☆

 

 オーケストラアレンジに興味ある人向け。日本で言う、「管弦楽」の本。

 楽器一つ一つ、丁寧に解説されていて、しかも、実際の例を挙げながら、応用の仕方も解説されています。オンラインで参考音源が聴けるのが良い。

 

 ただ、1年と期限付きで、また聴こうと思えば、お金を払わないといけない。←ケチ・・・

 新しいメルアドで登録すれば2週間のお試し期間がありますが・・・

 

 とにかく、ケチですが、中身はめちゃくちゃ良いです。

 あと英語です・・・

 

<まとめ>

 筆者が現時点で「めちゃくちゃ良い」と太鼓判を押す書籍はこの5つ。ですが、本はやっぱり、自分が合うと思うものを選ぶのがベスト。しかし、良書にも共通点があると思います。それは・・・

 

・参考例がついていて、なおかつそれが聴けるもの

 

 この1つに限られると思います。要するに、CDやネットで参考例を実際に聴くことができる本です。

 参考例の楽譜だけついている書籍は、いちいち音源を自分で探さないといけないので、勉強しにくい・・・

 音楽は本来、耳で聴くものなので、聴きながら勉強した方が説得力がありますし、効率的ですよね。本ブログにも頑張って参考音源をつけているのもそれが理由です。

 

 CDがつくことでお値段はその分高くなりますが、この点を目安に自分に合う理論書を見つけていただけたら、と思います。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

  

ドレミファソラシドだけで曲を書いてみる(オーケストレーション編)

 今回の前回の記事https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/03/22/200226で紹介した筆者のオリジナル曲をオーケストレーションの視点から解説したいと思います。←今回は理論の知識入りません!

 

 その筆者のオリジナル曲がこれ↓

 

<早速、アレンジを始めようや>

①楽器構成を決める

 まず、使用する楽器を決めましょう。使う楽器は音楽ジャンルによって様々。例えば・・・

クラシックオーケストラ、弦楽五重奏、ピアノ曲など

  ジャズビッグバンド、ラージアンサンブル、スモールアンサンブル

 ポップスボーカル、キーボード、ギター、ベース、ドラム

 

今回の記事で「オーケストラ用の曲を書く」と決めていましたから、自動的にオーケストラの楽器構成で決まりです。

 

②横(メロディー)

 どの楽器に担当させる?

  楽器それぞれ音色、個性が違うので、使う楽器によって全然違う印象になります。

これはどのセリフをどの俳優言わせるか、で全然印象(演技)が違うようなもの。

  

 例えば「Death Note」は何回かリメイクされたが、藤原竜也さんが「計画通り・・・!」って言うのと、窪田正孝さんが「計画通り・・・!(めちゃくちゃ悪そうな笑み)」って言うのと全然印象が違うのと同じです。

  

③縦(和音)

 どの楽器にどの音をあてる?

 基本的に息を使う楽器は1つの音しか出ないので、ひとつひとつの楽器に音をあてて、和音を鳴らす。←みんなでハーモニーを作ろうね的な感じ。

 

今回は②に焦点を当て、解説していきたい。

 

それでは今回の登場人物(楽器)を紹介しよう。←ざっくりと、テキトーに。

 

木管楽器

フルート・・・小鳥のさえずりのような速いフレーズが得意。

オーボエ・・・鼻をかけたような滑稽な音色がする。今回のアレンジで大活躍。

イングリッシュホーン・・・オーボエと似てる。オーボエに優しい音色を付け足した感

             じ。←正直、違いがよくわからない。

クラリネット・・・森!って感じの音。

バスーン・・・面白おかしい音色がする。

コントラバスーン・・・バスーンが出ない低い音域を担当。

金管楽器

ホルン・・・暖かみを持つ、遠くまで届くような音を出す。今回のアレンジでちょこち

      ょこ顔を出す。

トランペット・・・金管楽器の花形。ファンファーレでよく使われる。「天空の城ラピ

         ュタ」で登場するパズーの演奏で有名。

トロンボーン・・・暖かく、丸みのある音色を持つ。サポート役でもソロ役でも大活躍

         できる。

 

<打楽器>

ティンパニ・・・曲に迫力を与える。打楽器なのに実はドレミが出せる。

シンバル・・・盛り上げ役。

トライアングル・・・チンチロリンと音がする。

ウィンドチャイム・・・長さの違う金属棒を横に並べた楽器。小学校の音楽会でもよく

           使われるので、読者もご存知のはず。

 

鍵盤楽器

チェレスタ・・・ピアノの友達。キラキラした、幻想時な音を出す。

 

<弦楽器>

バイオリン・・・オーケストラの主役。音域が広く、美しい音色を持つ最強と言っても

        いい楽器。

ヴィオラ・・・バイオリンより大きいので、バイオリンよりも太く、男性的な音色を持

       つ。

チェロ・・・あまり目立たないが、音域が広いのでサポートもメロディも担当できるの

      で、意外と柔軟にこなせる楽器。

コントラバス・・・弦楽器の低音担当。見た目の割に、持ってみると意外と軽い。 

 

<セクションB>

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B1~14

 まずはメロディーをどの楽器にさせるか?

 ・・・。ヴァイオリンにしよう。無難ですね。

 コード、つまり、伴奏担当はヴィオラ、チェロ、コントラバスオーボエ、イングリッシュホーン、クラリネットバスーンです。

 

 <セクションC>

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C1〜11小節め

 このブログで何度か述べたように、同じものが2回続く時は何かを変えましょう。←コピペダメ。ゼッタイ。

 

!アレンジポイント!

①トランペット、トロンボーンを入れて、曲を華やかにし、ティンパニで迫力を与え

 ます。コントラバスーン、チェロ、コントラバスの低音楽器がティンパニーと同じリ

 ズムでサポートします。

 

②ヴァイオリンを1オクターブ上げ、さらに、メロディーにヴィオラを召喚!

 ヴィオラなし

 ヴィオラあり 

 ヴィオラもメロディーを担当させることによって、パワーが5000ほど上がって、力強くなりました。 

 

 ③伴奏パターンを変更!

 先ほどのBセクションでは8分音符の伴奏でした。それをCセクションでは3連符に変更です。木管楽器が担当しています。個々の楽器が1フレーズ全部を演奏するのは大変なので(息つぎの関係で)、ひとつのフレーズを2つに分けて、演奏させます。ここでは「クラリネットイングリッシュホルンオーボエ、フルート」です。 

 

④ホルンで暖かみを与える

 ホルンあり

 

 ホルンなし 

*わかりにくい時は音量を上げたり、イヤホンを使うなど、音響環境を変えてみてくだ

  さい。

 

 ホルンが無いバージョンだと、少し物足りないような感じがしませんか? 

 この場面では、ホルンは全音符を「ぽーーー。」と吹いているだけですが、アレンジに暖かみが加えられた印象が筆者はします。

 ここでのホルンは料理で言う「隠し味」のような役割を持ちます。ちょっとの違いですが、入ってるいるのと入っていないので、全然味が違う・・・そんな感じです。

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C12〜16小節目

 

 

 上図の赤四角内を見てください。今まで各々の楽器が違う動きをしていました。ここでは全ての楽器がメロディーに合わせて同じ動きをしています。

 この2小節前から聴いて、比べてみましょう。 

 それまで違う動きをしていた楽器達がいきなり同じ動きをすると、ちょっとびっくりするというか、インパクトあって、そこに注意が向けられますよね。 

 

 筆者は音楽と漫才は似たような点があると感じます。この場合、例えば、オードリーさんの・・・

      春日さん「お前それ本気で言ってるのか?」

      若林さん「本気で思ってたらこんな何年も漫才やってないだろ」

 春日さん&若林さん「・・・デへへへへへ!」

 

 これまでボケとツッコミの会話だったのに、いきなり二人でシンクロすると、新鮮というか、インパクトがあり、この場合笑いが生まれます。上の場合、筆者はそれと似たような現象だと思っています。

 

 次に青四角を見てください。休符をぶち込んで、曲が止まったような印象を与えました。

 たった1小節前まで全員で演奏していたのに、いきなりほとんどの楽器が消えます。これによって、またインパクトのある印象が得られます。先の「オードリーテクニック」と「休符ぶち込むテクニック」を連続して使う、少し攻撃的なアレンジです。

 

<セクションD>

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D1〜12小節目

 

 場面が変わるので、ここで今までの雰囲気をガラッと変えたいと思いました。そこで幻想的なアレンジを作るべく、メロディーをオーボエに任せ、ヴァイオリンにサポート側に回ってもらいました。

 

 緑丸と緑矢印を見てください。 ヴァイオリンがオーボエのメロディーをサポートしながらコードの構成音を奏でています。

 

 ここで最も注意したいのはオーボエヴィオラの”会話”です。 

 音楽はすべて「メロディ+伴奏」で成り立っているのでしょうか?いいえ、「メロディー+メロディー」もあり得ます。

 

 前回の記事https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/03/22/200226でメロディーにあえてスペースを作ったことを述べました。このスペースにもう一つのメロディーをぶち込みます。

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 あえてスペースを作ることで、「もう一つのメロディー」が入れる余裕が生まれます。メインのメロディー(ここではオーボエ)以外の、この「もう一つのメロディー」を対旋律(counterpoint または counterline)と言います。対旋律を入れることによって、音楽に会話のようなものが生まれました。

 

 さて、曲の真ん中に幻想的でロマンチックな場面を入れる例を他にもあります。

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Belle from "Beauty and the Beast" 作曲:Alan Menken 歌詞: Howard Ashman

 上図はディズニー映画「美女と野獣」より「朝の風景」の抜粋です。(楽譜はエマ・ワトソン出演、実写版を参考)

 最初は、主人公ベルが町の人々と会話する、元気で楽しいシーンですが、真ん中にロマンチックで少女的な雰囲気をぶち込んで、対照的な構成を作ります。

 

 このような手法はゲーム音楽にも見られます。

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大乱闘スマッシュブラザーズDX オープニング 作曲:HAL研究所 

 上の楽譜は2001年に発売されたゲームキューブ用対戦型ゲーム、大乱闘スマッシュブラザーズDXのオープニングです。勇ましいイントロで始まり、真ん中の部分で幻想的なシーンに変わります。

 

 オーボエの出番は終わると、すぐさまヴァイオリンに主役を交代します。

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D9~12小節目

  ここではより幻想的な印象を作るために、チェレスタ、ウィンドチャイム、トライアングルを使いました。チェレスタとヴァイオリンを組み合わせて、メロディーの音色が作るのがコツです。それでは、チェレスタのあり・なしヴァージョンを聞いてみましょう。

 チェレスタあり

 チェレスタなし

 やはり、筆者の印象では「チェレスタなし」だと少し寂しい感じがします。「チェレスタあり」の方が幻想感が少し増します。

 

 どちらにしろ、むしろ、ここで重要なのは「楽器の組み合わせ方」です。チェレスタとヴァイオリンがユニゾン・・・云々、という話ではなく、「チェレスタとヴァイオリンで一つの音色を作っている」という考え方に注目していただきたい。

 この楽器の”混ぜ方”によって、サウンドカラーが違ってきます。別に必ずしもチェレスタでなくとも良いのです。ハープでも、尺八でも、女性ヴォーカルの声でも良いのです。チェレスタを選んだのは、あくまで作曲者が「チェレスタがいいな」と思っただけの話です。

 楽器の”混ぜ方”の可能性は膨大ですから、ここに作曲者・編曲者の個性が表れます。

 

<セクションE>

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レッテルE

 場面変わって、次はホルンにメロディーを託しました。4本のホルンのうち、2本がメロディー、残りの2本がコードを担当しています。

 

 場面が変わったので伴奏のパターンも変えました。

 ストリングス、クラリネット、イングリッシュホーンが小刻みに8分音符を演奏しています。軽さは出ますが、筆者はこれはあまり最善ではないな、と感じています。もっといいパターンがあるはずですが・・・筆者の創造力の枯渇です。 

 

 <セクションF>

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F2〜11小節目

 最後は全員で大合唱です。  

  最後は盛り上がりたいので、すべての楽器を使いたいところです。単純に楽器使う量が多くなるほど、音量が上がります。実際のプレイヤーのことを考えても、皆が演奏しているのに、自分だけ演奏していない・・・という状況はあまりにも寂しいです。

 ところで、筆者はシンバルの使い方をもっと工夫できたのでは、と反省しています。各小節の1拍目に置かれていて、すごくワンパターンな感じがして、変化が感じられず、飽きてしまいます。

 

 <まとめと反省。これからのこと>

 (偉そうに)独自のオーケストレーションの手法を説明してきました。ドレミだけで曲が書ける、オーケストラが書ける、と単純に言っても、オーケストラにアレンジする作業は労力と創意工夫が必要です。楽器の量が多いので。12色入りの色鉛筆よりも24色入りの色鉛筆の方が、選択肢は多いですが、その分、センスと職人の腕が必要になってきます。恐らく、それと同じです。

 自分の作品を聴くと、「まぁ無難な曲だな」と感じます。曲としては成立しているけれども、なんか迫力が欠けているような気がします。先人達のオーケストラ作品やハリウッドの映画音楽には最初から観客を心を掴むような、とんでもないイントロがあります。それと比べるとこの作品はスケールがかなり小さいです。

 

 さて、今までそのスケール内の音、つまり、ドレミファソラシドだけで解説してきましてた。これからはそれ以外の音、#や♭がついた音にも視野を広げて、解説していきたいと思います。例えば、「転調」や「セカンダリドミナント」、「モーダルインターチェンジ」などについて扱います。要するに、使える音やコードをもっと広げていく・・・ということです。

 その前に「そもそも#や♭が増えたり、減ったりするということはどういう聴覚的効果があるのか?」について次回、解説したいと思います。

 

*少し、下調べ・資料集めに準備に時間をかけたいので、音楽理論以外のことも記事にする予定です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

ドレミファソラシドだけで曲を書いてみる(曲作り編)

 今回は今まで学んだ知識を使い、ハ長調(Cメジャー)の音だけ、つまり、ドレミファソラシドだけで曲を作ろうと思います。

 

 ということで、こんな曲を用意しました。

 *作曲:筆者 

 

 オーケストラバージョンだと解説しにくいので、これをメロディーだけのコンパクトな楽譜にまとめましょう。

f:id:taka-musictheory:20200322191422p:plain 39小節の短い曲です。 

 赤丸で囲まれているA~Dは「リハーサルマーク」と呼ばれ、新しい場面が始まったところにつけられます。文章を意味段落でまとめるようなものです。(物語の「起承転結」や論文の「はじめにー方法ー本文ー結果ー考察」に近い)これによって全体的な構造を分析しやすくします。また、「Aの◯小節目から始めて」とか「Bの◯小節は・・・」などと、合同練習の時に便利な代物です。どこの小節かすぐに特定できます。楽譜を作る時は絶対につけましょう。

 

 ドレミファソラシド(つまり、白い鍵盤)という”縛り”があるので、先にメロディーを作りました。これにコードをつけていきましょうか。その前にこれまでの復習を。

 

ハ長調(Cメジャースケール)で使えるコード 

f:id:taka-musictheory:20200322030809p:plainコードとスケールは相対関係にある、と述べました。スケールの各音で”お団子さん”を作ると、コードができます。そのスケールから作られたコードをダイアトニックコードと言います。上図がドレミファソラシドから生まれたダイアトニックコードです。もちろん、これを全部使わなくても大丈夫です。また、コードにはローマ数字を使って番号がつけられます。 

 

ハ長調(Cメジャースケール)で使えるコードの機能

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 各和音の性格や傾向を「機能」と言いました。機能はトニック、サブドミナントドミナントの3種類しかありません。ハ長調(Cメジャースケール)のダイアトニックコードを機能ごとに分けると上図のようになります。

 

③転回系を使おう

 コードの構成音を並び替えることを「転回」と言います。転回によって得られるメリットは

・コードの質量感を変える

・ベースラインをより滑らかに、美しくする

 

 でした。これについては、曲を使って解説したいと思います。それでは、曲のメロディーにコードをつけていきましょう。

<A1~4>

 

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ドレミ縛りA1~4

 初めの1小節目はほぼトニックのIから始まります。サブドミナントドミナントから始まる場合もありますが、時代によりけりです。現代の音楽でもトニックのIから始まる曲は多いです。理由は色々あるでしょうが、もはや将棋やチェスで言う、定石のようなものです。←1手目は角か飛車の前を開ける、みたいな。

 

 さて、次からどうやってコードをつけていきましょうか?

 基本的にはメロディーの音を含むをコードを持ってくればいいだけです。上図の赤丸と赤矢印を見れば、メロディーの音を含むコードを使っていることがわかると思います。

 しかし、例えば、Aの2小節目の「レ」を含むコードはGの他に、DmやBdimなどがあります。わざわざGを選んだのは、筆者が「Gが一番いいな」と思っただけです。ここにはあまりこだわりはありません。別にDmやBdimでも問題ありません。要するに好みの問題です。

 

 最後に、転回系を使って、ベースラインに流れを与えましょう。(緑丸と緑矢印)

 

 この作業を曲の終わりまで永遠と繰り返します。←事務的な作業では決してないです。

 

<A1~8>

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ドレミ縛りA1~8

 Aの1〜4小節目とAの5〜8小節目は似てますね。しかし、全部が同じではいけません。各4小節のフレーズの最後を少し変えました。

 青四角を見ていただきたいのですが、メロディーを”線”として捉えた時に、後のフレーズの頂点、てっぺん(青丸)を前のフレーズより高くしました。メロディーの頂点を高くすることによって、よりダイナミックな印象が出ます。

 そして、最後のコードも変えました。赤四角のコード進行は全く同じですが、最後だけG7をEmに変えました。メロディーの音は「ソ」なのでGやCが考えられますが、あえてEmにしました。違いを聴いてみましょう。

 

 ①Cmajの場合

 ん・・・まぁ普通

 ②Gmajの場合

 なんか”気が強い”印象

 ③Emの場合

 Emの方は切なく感じるので、筆者はこれを選びました。

 

<A9~16>

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ドレミ縛りA9~16

 Aの9小節を書いている途中で、この型(青四角)を何回も使っていることに気づきました(A1とA5に出てくる)。この型を続けて何回も使うことにしてみました。こういう型を”モチーフ”と言いましたね。

<A15~16> 

 ここで一旦、締めたいのでカデンツを使って終始感を出します。サブドミナント(SD) ードミナント(D)を使います。また、Aの初めに戻ります。

<A9~20>

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ドレミ縛りA9~20

 緑四角で示す、「棒線にチョンチョン」マークは「これと同じマークに戻れ」と言う意味になります。Aの1小節目に「棒線にチョンチョン」マークがあるので、そこに戻ります。*リピート記号って言います。

 1回目の演奏に「1.」とガイドされている段に進み、2回目の演奏に「2.」と書いてある段に進みます。 

 要は、2回同じものが演奏されますから、何か変えないといけません。←コピペダメ。ゼッタイ。

 そこで赤四角内の部分を変えました。

 1回目と2回目、使っている音もコードこそ同じですが、メロディの方向、ラインの形が違います。1回目はまず下へ進みますが・・・

 

2回目は上へ向かって伸びています。 

 メロディーが上に上がることで高揚感が出ますね。メロディーラインの形はメロディーの印象を作る上で非常に大事です。

 

<A21~24>

 

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ドレミ縛りA21~24

 ここでリハーサルマークAは終わらせたいので、SD-D-Tの"お決まりカデンツ"で一旦締めます。1次会終わった後の一本締めみたいなものでしょうか?

 

<B1~8>

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B1〜8小節目

 場面変わって、リハーサルマークBに行きます。場面が変わりますから、Aと対照的で、新しいフレーズを作りたいです。

 何を対照的にするか?と考えた時に、メロディーの音の数を減らそう、と思いました。Aでのメロディーの音数も多くはないですが、もっともっと減らして、メロディーにスペースを与えました。さらに、Bでは一つのフレーズがAより長くなりました。このBの最初の8小節は”問いかけ”と”返事”のような、二つのフレーズで構成されています。ここでは前者をQustion Phrase、後者をAnswer Phraseとしましょう。

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リハーサルマークAのフレーズ構成

 AではQuestion PhraseとAnswer Phraseが2つずつあるのに対して、Bの方は1つずつしかありません。しかし、Bの方がAより広々として、伸びやかな印象を作ることに成功しました。 この広々とした印象とスペースが後々生きてきます。

 

<B1~16>

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B1〜16小節目

 青四角の部分を変えました。後半の青四角では完全8度(オクターブ)上の音を付け加えて、どこかへ飛び立つような印象を与えます。

<C1~8>

 

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C1〜8小節目

 転回系を使って2度進行のベースラインを作ることに飽きてきたので、Cの最初の4小節で少し違うタイプのコード進行を使いました。I→IIIm→IV→Iの流れです。ここでも、メロディーの音を含むコードを使っています。(赤丸と赤矢印)

 

<C1~D8>

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C1〜D8小節目

 リハーサルマークD。曲は終盤に差し掛かります。盛り上がって終わりたいです。

 CとDでは似たようなメロディーを使っています。変更点は青四角と緑四角の中にあります。

 Cと赤四角から青四角にかけてメロディーは下へ向かいます。しかし、一方、Dでは、メロディーは上へ向かいます。メロディーは上へ向かう方が気分が上がりますね。

 そして、緑四角。Cの緑よりDの緑のメロディーの方が盛り上がっている感じがします。これはおそらくフレーズのゴールの高さが違うからだと思います。

 どちらもスタートは「ソ」ですが、Cのゴールは「ファ」、Dのゴールは「ラ」と、Dのゴールの方が高いですね。このフレーズのゴールの高さが印象を決定していると筆者は考えています。

 

<D9~D12>

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D9~12小節目

 最後は大盛り上がりで終わります。メロディーが上がったり、下ったりしながら、上へ上と上がります。転回系を使って、上行系のベースラインも作りました。皆で上へ上がって、大盛り上がりです。

 最後にトニックのIで終わって、”めでたしめでたし”です。トニックのIは終始感や安定感が強いので、”めでたしめでたし”感がします。

 この曲がトニックのIで始まったことを思い出してください。Iで始まって、Iで終わるのでは曲作りの”あるある”です。Iはいわば、そのキー(調)のホームです。ホームで始まり、ホームで終わるとかなり強い安心感が得られます。

 

<終わりに>

 全体的にメロディーをフォーカスした解説になってしまいました。メロディーにコードをつける、またはコードからメロディーを作るには知識と慣れが必要ですが、結局は作曲者の”好み”です。初めに復習した通り、ドレミファソラシドだけで使えるコードは3和音と4和音に7種類ずつしかありません。そこから任意にコードを選んで、T、SD、Dの機能の法則に従えば、聞いたことないような素晴らしいコード進行を作る方がはるかに難しいです。むしろ、あまり意味がないです。使える音、コードだけでいかにいい曲を作れるか、の方がよっぽど重要です。観客は普通、曲のコード進行なんか分析しません。

 かといってコード自体のことを学ぶことも、もちろん重要です。音楽の歴史に和音が誕生してから、多くの作曲家、理論研究家がどのように和音を美しく使うか研究してきました。しかしながら、何を、どのように和音を使うかは結局は作曲者の”任意”であり、好みに任されます。

 

 次回はこの曲をどう料理していくか、に焦点を当てます。理論についてはあまり言及せず、オーケストレーションの目線から解説していきます。

 

 

  

 

 

 

 

 

 

転回系の美しさ<メロディーもベースも美しく>

 コードとスケール編②<古典派作曲家からコードを学ぶ(ついでに曲アナライズも)〜ハイドン編〜> https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/02/19/015743 で少し「転回系」について解説しました。今回はその転回系をもっと深く掘り下げたいと思います。

その前に、転回系とは何でしょうか?少し復習してみましょう。

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例 : Cmaj7の転回系

 和音の構成音を並び替えることを転回すると言います。また、転回された和音を転回系(inversion)と言います。上図のように、一番下の音を上に持ってくるだけで転回ができますね。例えば、Cmaj7だと、全部で4種類のポジションがあります。

 

 第◯転回系(◯ Inversion)の◯に入る数字は、「何回和音をひっくり返したか」ではなく、ベース、つまりは「一番下の音が和音の何番目の音か」によって決まります。あまり難しい話ではありません。

 

<基本形(Root Position)>

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基本形(Root Position)

 根音(ルート)が一番下にくる形を基本形(Root Position)と言います。

 

<第一転回系(1st Inversion)>

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第一転回系(1st Inversion)

 3rdが一番下に来ると、第一転回系(1st Inversion)と呼ばれます。

<第二転回系(2nd Inversion)>

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第二転回系(2nd Inversion)

 5thが一番下にあると、第二転回系(2nd Inversion)になります。

<第三転回系(3rd Inversion)>

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第三転回系(3rd Inversion)

  そして、(maj)7thが一番下にくると、第三転回系(3rd Inversion)と呼ばれます。

 

 要するに、ベース(一番下の音)が何番目の音か、が重要な鍵となります。

 

 しかし、だから何だ?というのでしょうか?

 

 重要なポイントは基本形とこれら転回系を組み合わせて、より音楽を面白く、美しくすることにあります。転回系を使うメリットは次の2点です。

 

 ・和音の重量感を変える

   ・ベースラインにヴァリエーションを与える

 今回、解説する曲はコードとスケール編④<古典派作曲家からコードを学ぶ 〜ベートーヴェンピアノソナタ「悲愴第1楽章」の冒頭を分析〜>https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/02/28/192630で扱った、ベートーヴェンの「ピアノソナタ 悲愴」の第2楽章です。

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Piano Sonata No.8, Op.13, 2nd Mov. / Ludwig van Beethoven

*sequenced

 非常に美しい曲です。しかし、美しいのはメロディーだけではありません。まずは、最初の8小節内で使われている転回系はどこか、探してみましょう。

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 赤い四角で囲まれたところが転回系です。分数のような形のコードシンボルがそうですね。では、ここで転回系を使わずに、全部ベースがルートの基本形だけにしてみるとどうなるのでしょうか?実験してみましょう。

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全部、基本形にしてみた

 *sequenced

 別に悪くありませんし、所々、良いサウンドがする箇所もあります。しかし、全体的に”重い”印象を与えます。  

 理論的には間違っていないはずなのに、全部基本形にするだけで曲の質量感が変わってしまいました。

 しかし、変わるのは質量感だけではありません。今度はベースライン、一番下の音だけを聞いてみましょう。

 

    全部基本形の場合

 時折、同じ音を何回か繰り返していて、変化もなく、全体としてのっぺりした印象です。

 

 原曲の場合

 転回系を使うと、ベースラインにメロディーらしさが出てきて、非常に美しいものになるのがお分かりでしょうか?

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1〜8小節目

 上図のように、上手く基本形と転回系を駆使することで、ベースラインに2度進行が生まれ、メロディーっぽくなりました。

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9〜16小節目

 9〜16小節目の赤い四角内では、アルペジオのようなベースラインに変化しました。メロディーのようなベースラインは一番上のメロディーの隙間を縫うように現れ、双方が絶妙なコンビネーションを作っています。ベースラインはもはや目立たない、影の存在ではありません。

 

 このように転回系を使うことで、和音の質量感を変えるだけでなく、ベースラインに優美さ、甘美さを与えることができるのです。それは、他の音楽ジャンルでも同じです。

 

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Like Someone in love / Jimmy Van Heusen

 *sequenced     *大人の事情でメロディーなし  

 こちらは1944年の映画、「ユーコンの女王」のために作曲された、ジミー・ヴァン・ヒューゼンによる「Like Someone in Love」の冒頭です。

 こちらも、転回系と基本形を組み合わせることによって、ベースラインに2度進行が見られます。 

*m2=minor 2nd、短2度 M2=major2、長2度

 

  ジャズの大スタンダード、「Waltz for Debby」では面白い使い方がされています。

 

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Waltz for Debby / Bill Evance

*sequenced     *大人の事情でメロディーなし  

 いきなり、1小節目からFmaj7/Aと第一転回系(1st position)を発動してきました。これは次のDm7にベースラインを5度進行をさせるだけでなく、冒頭から転回系を使うことによって曲に浮遊感を与えました。さらに、5小節め以降は、第一転回系から第三転回系と基本形を組み合わせることで、半音進行のベースラインを作ることに成功しています。←一つだけ全音があるけど・・・

 *h.n=half note、半音 w.n=whole note、全音

 

<まとめ>

 もう一度繰り返すと転回系を使うメリットは

和音の質量感を変えることができる

ベースラインを美しくすることができる

 ことの2つでした。今回、伝えたいことは転回系の概念そのものではなく、「転回系を使って音楽をより面白いものにする」ことでした。音楽の美術的要素は何もメロディーだけではありません。メロディーだけに神経を使うのでなく、コードやベースラインにも気を使うことで音楽に「細の美」を与えています。特に、ベートーヴェンピアノソナタ「悲愴第2楽章」は転回系の、最も美しい使い方の一例だと思います。

 ベートヴェンのピアノソナタで「全て基本形で演奏された場合」と「転回系を使った、原曲」の場合を比較して、転回系を使うとサウンドが変わるということがわかりました。一方、ラモーは「転回系しても全部同じ和音として扱う」と言いました。(例えば、「Cmajor」をどのように転回しようが、全部同じ「Cmajor」であることには変わらないということ)

 *「コードとスケール編①<音楽理論音楽理論になるまで 〜ラモーが残した功績」>https://taka-musictheory.hatenablog.jp/entry/2020/02/16/063210 参照 

 

 しかし、筆者は転回された和音をそれぞれ別の和音として捉えることで、作曲工程において、さらにサウンドの選択の幅が広がる余地がある、と考察しています。

 

 次回は、今まで見てきた「コードとスケール」、「機能」や「転回系」の知識をどのように作曲に応用すればいいのか、(恥ずかしながら)筆者のオリジナル曲を使って解説していきたいと思います。 

    

 

 

 

 

 

コードは3つの種類に分けられる<音楽における"機能"とは>

  ドイツの音楽理論家、フーゴー・リーマン(1849~1919)はこう言いました。

     

   和声はトニック、サブドミナントドミナントの3種類しかねぇぞ。

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Karl Wilhelm Julius Hugo Riemann(1849年1月18日 - 1919年7月10日) 出典元:Wikipedia

 このトニック、サブドミナントドミナントとは何でしょうか?今回はそれについて取り上げたいと思います。↑前が少し禿げかけてますね。というか禿げてますね。

 

<まずはお約束>

 以前、コードとスケール編②でスケールの各音から作られたお団子さん(和音)をダイアトニック・コードと呼ぶ、と述べました。その各和音には楽曲の研究、分析のために番号がつけられます。

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 下から順番に1、2、3・・・と数えられ、ローマ数字が用いられます。しかしながら、ポピュラー音楽とクラシック音楽の間で少し表記が違いがあります。

 

 <ポピュラー音楽(ジャズなどのアメリカを起源に持つ音楽)>

 ポピュラー音楽ではローマ数字とコードシンボルが合わさったような形です。例えば、Cメジャースケールの1番目の和音はCmaj7ですが、ローマ数字の「Ⅰ」とCmaj7の「maj7」を組み合わせて、「Imaj7」と表記します。ポピュラー音楽では「数字+コードシンボル」で表記する、と覚えてください。多くはジャズを分析する時に用いられ、音楽大学や専門機関のジャズ専攻などでよく使われます。

 

 クラシック音楽西洋音楽)> 

 クラシック音楽での表記法ではポピュラー音楽のそれとは少し違います。

・短和音(マイナーコード)は小文字で表記

・三和音は数字だけで表し、四和音は「7」を添えるだけ

 

 主に和声学でこの表記法使われます。クラシック音楽ではポピュラー音楽のように「maj7」や「min7」などの表記は用いません。そもそも、私達になじみ深いクラシック音楽はもともとヨーロッパで発達してきた音楽であって、ポピュラー音楽はアメリカなどで西洋音楽の後に発展してきた音楽です。ヨーロッパとアメリカの公用語・文化が違うように、音楽界での表記の仕方も違います。けなすつもりではありませんが、パクったのはポピュラー音楽のほうです。

 

 クラシック音楽からすれば、例えば、長音階(メジャースケール)の「I7」なら、「○maj7」に決まっています。「調(key)が判断できていれば、数字だけでコードの種類がわかるだろ」というわけです。

 ポピュラー音楽ではちゃんと「maj7」や「m7」などコードの種類を表記します。そういう意味でクラシック音楽はスケール重視、ポピュラー音楽ではコード重視という意図が感じられます。ただ、下から順番に数字をつけていくことと、それぞれの表記法でメジャー・マイナー、三和音・四和音を表すことはどちらも変わりありません。

 しかし、以降、ここではポピュラー音楽の表記法を使います。

 

<一番重要なのはこの3つ!> 

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主要三和音

 

 1番目の和音を主和音(トニック,tonic)と言います。

 調(キー)の性格を決定する重要な存在です。曲に終始感と落ち着きを与えます。

 

 続いて、5番目の和音を属和音ドミナント,dominant)と呼びます。

 トニックに進もうとする傾向があります。

   

   最後に4番目の和音を下属和音(サブドミナント,subdominant)と呼びます。(「sub」は「下」を意味する接頭辞ですね。「subway」とか「submarine」とか)

 ドミナントに行く準備をしたり、トニックに進むことができます。

 これら、1番目、4番目、5番目の3和音を「主要三和音(primary chord)」と言います。

 

 それぞれ・・・

   ・トニック=T

   ・サブドミナント=SD

   ・ドミナント=D   

 

 と略され、流れは大きく分かれて、D-T, SD-T, T-SD-D-Tの3つです。聴いてみましょう。

 

<D-T型>

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*sequenced

 

 D-T型は一番基本かつコード進行の最小単位です。終始感と安定感がありますね。

 「ドミナントはトニックに進みたい」という性格があり、ドミナントとトニックはよくセットで使われます。

 

 ところで、コードとスケール編①で紹介した、ラモーはこう言いました。

 

  「Vには7thをつけれるぞ」

 

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Vに7thをつけてV7(ここではGをG7)にした場合

*sequenced 

 先程の例と比べてみてください。Vに7thをつけると終始感が強くなりました。何が起こったのでしょうか?

 

 Vに7thをつけることによって、3rdと7thとの間に減音程、減5度(Diminished 5th)が作られました。このV7やドミナントが持つ減音程をトライトーン(三全音)と言います。(全音を3つ含むから三全音)

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 このトライトーン、非常に不安定な音程で、中世では「悪魔の音程」と呼ばれていました。当時使えば破門にされていました。←「もうお前キリスト教徒じゃないからw」ということ

 このトライトーンの不安定さが「トニックに行きたい」という印象を強め、終始感をさらに強めるのです。より強い終始感を得られるので、音楽ではV-IよりもV7-Iの方が多く使われます。

 

<SD-T型>

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*sequenced  

 

 SD-TもD-Tと同様、終始感を得られますが、D-Tよりも穏やかな印象を受けます。

 

<T-SD-V-T型>

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*sequenced 

 

 V-T,SD-Tを組み合わせたものがこの、T-SD-V-Tです。これは音楽をやったことない人でも聞いたことがあるのではないでしょうか?学校の入学式や卒業式で見られる、「お辞儀の和音」です。 

 

 以上、基本的なT,SD,Vの流れは上記の3タイプです。これら3つの基本的な和音進行の規則をカデンツ(kadenz:独、candenza:伊、cadence:英)と言います。それではT,SD,Vの特徴をまとめてみましょう。

 

 トニック・・・終始感と安息感を与える

 サブドミナント・・・トニックに進んだり、ドミナントに進む準備をする性格

 ドミナント・・・トニックに進む傾向

 

 和音にはそれぞれ傾向と性格があり、音楽の世界ではそれを機能(function)と呼びます。それでは他の和音についてはどうなのでしょうか?

 

<トニック族> 

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 Imaj7に加え、IIIm7とVIm7 もトニックに分類されます。

 Imaj7と共通した音を持つことがポイントです。

サブドミナント族> 

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 IIm7とV7susサブドミナントに含まれます。

    4th(スケールの一番下から4番目の音)を持つことがポイントで、この4thはトニックの3rdに進む傾向を持ちます。

ドミナント族> 

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 ドミナントはV7に加えて、VIIm7(b5)も分類されます。VIIm7(b5)は前述したトライトーンを含むのでドミナントの機能を持つということです。トライトーンを含むことがドミナントの特徴なんですね。

 V7susはトライトーンを持ちませんが、トニックに進むことがあるので、一応、ドミナントにも分類されます。進んだ先の和音によって、サブドミナントになったりドミナントになったりします。

 

 機能はトニック、サブドミナントドミナントの3つの種類に集約されると言っても、それぞれいくつかの和音を含むで使い方、選び方の可能性は広がります。しかし、この記事で最も言いたいのは、結局音楽というのは(一部の音楽を覗き)、トニック、サブドミナントドミナントの3つでしか構成されていない、ということです。

 

 バッハの371のコラールより、「Aus meines Herzens Grunde」を聴いてください。

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Aus meines Herzens Grunde/Johann Sebastian Bach

 *SATB=ソプラノ、アルト、テナー、バス

 *sequenced      ↑神々しいですね・・・

 

 これをT,SD,Dに分類すると、こうなります。

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 やはり、T、SDとDしか見られません。

 それは現代になっても同じです。

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青春の馬/作編曲:近藤圭一

 2020年2月19日発売された日向坂46の4thシングル「ソンナコトナイヨ」に収録されている「青春の馬」(youtubeの公式アカウントから試聴できます)のイントロです。

 バッハの時代から約300年たった現代でもT、SD、Dのたった3つで音楽はできていることは変わらないのです。

 

 ベートーベンはピアノ協奏曲第5番 「皇帝」第1楽章でT,SD,Dを大胆な使い方をしています。

*sequenced

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1〜2小節目 / Piano Concerto no.5, "Emperor", op.73 / Ludwig van Beethoven

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3〜小節目 / Piano Concerto no.5, "Emperor", op.73 / Ludwig van Beethoven

 出典元:IMSLP Petrucci Music Library  https://imslp.org/wiki/Main_Page

 

 こんなに壮大な楽曲でも結局はT, SD, Dの集まりにすぎないのです。これはレゴブロックの作品に似ています。どんなに大きくて、工夫を凝らしたレゴブロックの作品でも、一つ一つ分解してみれば、数種類の同じブロックの集まりだということがわかります。音楽でもこれと同じようなことが言えるのです。

 

<まとめ>

 和音はトニック、サブドミナントドミナントの3つに分けられ、しかも、それぞれの機能を持つということを述べました。ほとんどの楽曲はこれら3つの種類の集まりでしかありません。しかし、問題はこのトニック、サブドミナントドミナントをどのように芸術的に使うか、ということです。それは次の次の記事で、筆者自らの曲を使って解説したいと思います。その前に、次回では、もう一つのポイント、「転回系の芸術」について解説したいと思います。  

参考文献

「究極の楽典 ー最高の知識を得るためにー」 青島広志 全音楽譜出版社

「ハーモニー探求の歴史 思想としての和声理論」 

 西田紘子、安川智子、大愛崇晴、関本菜穂子、日比美和子 音楽之友社

「REHARMONIZATION TECHNIQUES」 Randy Felts  berklee press